世界映画史上最高の映画は何だろうか。それは人それぞれ違う考え方、感じ方があると思うけど、一応の目安というものがあるのだろうか。世界各国で映画賞やベストテン選出などが行われている。ある程度、映画の完成度には共通の感覚があるということだろう。それでも「世界映画」全体となると、そもそも世界各国の映画を見られる地域が限られている。世界には自由に映画を見られない地域はかなり多い。自由に映画を見て論じられる環境がある社会だけが「世界映画」を論じられる。
実はイギリス映画協会の「サイト&サウンド」という雑誌が、1952年に始まって10年ごとに「世界映画ベストテン」を選出する試みを続けている。それは偏った部分もあると思うけれど、そこも含めて「世界で映画がどのように見られて来たか」を示すものとなっている。10年ごとというと、つまり2022年が最新の選出年である。今年の結果はある意味で当然、ある意味で衝撃的なものだった。それを紹介する前に、まず1952年から2012年までを振り返ってみたい。(批評家選出部門を見る。)
以下、題名と監督名を示す。最初に出て来たときだけ太字にしてある。つまり、1952年は全部太字だが、それ以後は新たに入選した作品だけが太字。当然ながら、その年以後に作られた映画は入らない。しかし、それ以前の映画でも新たに評価が高くなった映画、逆に評価が落ちた作品が存在する。例えば1962年から2002年まで1位に選ばれたオーソン・ウェルズの『市民ケーン』(1941)は1952年には選ばれていない。その後に、この映画の革新性と完成度の高さが世界で認められて行ったのである。
(『市民ケーン』)
1952年
①自転車泥棒(ヴィットリオ・デ・シーカ)②街の灯(チャーリー・チャップリン)③チャップリンの黄金狂時代(チャーリー・チャップリン)④戦艦ポチョムキン(セルゲイ・エイゼンシュテイン)⑤イントレランス(D・W・グリフィス)⑤ルイジアナ物語(ロバート・フラハティ)⑦グリード(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)⑦陽は昇る(マルセル・カルネ)⑦裁かるるジャンヌ(カール・ドライヤー)⑩逢びき(デヴィッド・リーン)⑩ル・ミリオン(ルネ・クレール)⑩ゲームの規則(ジャン・ルノワール)
★寸評 イタリアの「ネオ・レアリズモ」の代表作『自転車泥棒』がこの時だけベストワン。チャップリンの古典が高く評価されているのも時代を感じさせる。無声映画が半数ほどを占めるのも古い感じがする。
1962年
①市民ケーン(オーソン・ウェルズ)②情事(ミケランジェロ・アントニオーニ)③ゲームの規則(ジャン・ルノワール)④グリード④雨月物語(溝口健二)⑥戦艦ポチョムキン⑥自転車泥棒⑥イワン雷帝(セルゲイ・エイゼンシュテイン)⑨大地のうた(サタジット・レイ)⑩アタラント号(ジャン・ヴィゴ)
★寸評 初めてオーソン・ウェルズ『市民ケーン』がベストワンに選ばれた。またアントニオーニ『情事』が1960年の映画にもかかわらず2位に選ばれている。日本映画で溝口健二『雨月物語』が4位入選。以後、毎回日本映画が選出されている。
1972年
①市民ケーン②ゲームの規則③戦艦ポチョムキン④8 1/2(フェデリコ・フェリーニ)⑤情事⑥ペルソナ(イングマル・ベルイマン)⑦裁かるるジャンヌ⑧偉大なるアンバースン家の人々(オーソン・ウェルズ)⑧キートン将軍(バスター・キートン)⑩雨月物語⑩野いちご(イングマル・ベルイマン)
★寸評 『市民ケーン』が1位、『ゲームの規則』が2位というのがこの後しばらく定着する。『ゲームの規則』は日本では岩波ホールで1982年公開と遅れたが、フィルムセンターで見ることが可能だった。確かにジャン・ルノワール監督の最高傑作だと思う。ベルイマン作品が2本入選しているのも70年代を思わせる。
(『ゲームの規則』)
1982年
①市民ケーン②ゲームの規則③七人の侍(黒澤明)③雨に唄えば(スタンリー・ドーネン、ジーン・ケリー)⑤8 1/2⑥戦艦ポチョムキン⑦アタラント⑦偉大なるアンバースン家の人々⑦めまい(アルフレッド・ヒッチコック)⑩キートン将軍⑩捜索者(ジョン・フォード)
★寸評『雨月物語』に代わって、日本映画では『七人の侍』が選ばれた。またヒッチコック『めまい』、ジョン・フォード『捜索者』が初選出。二人ともたくさんの娯楽映画を作った監督だが、この頃からこの2作がそれぞれの代表作と見なされるようになった。公開当時はどちらも不評で失敗作と見なされていた。
(『めまい』)
1992年
①市民ケーン②ゲームの規則③東京物語(小津安二郎)④めまい⑤捜索者⑥アタラント号⑥戦艦ポチョムキン⑥裁かるるジャンヌ⑥大地のうた⑩2001年宇宙の旅(スタンリー・キューブリック)
★寸評 欧米への紹介が遅れた小津安二郎だが、80年代に「発見」され『東京物語』が上位選出の常連となった。またキューブリック『2001年宇宙の旅』が公開20年以上経ってベストテンに入り、以後常連となる。
(『東京物語』)
2002年
①市民ケーン②めまい③ゲームの規則④ゴッドファーザー(フランシス・フォード・コッポラ)⑤東京物語⑥2001年宇宙の旅⑦戦艦ポチョムキン⑦サンライズ(F・W・ムルナウ)⑨8 1/2⑩雨に唄えば
★寸評 公開30年目で『ゴッドファーザー』が入選した。一方で1927年製作の無声映画『サンライズ』が初めて入選。『戦艦ポチョムキン』とともに無声映画が2本となった。
2012年
①めまい②市民ケーン③東京物語④ゲームの規則⑤サンライズ⑥2001年宇宙の旅⑦捜索者⑧カメラを持った男(ジガ・ヴェルトフ)⑨裁かるるジャンヌ⑩8 1/2
★寸評 ヒッチコック『めまい』が7位、4位、2位と上昇してきて、ついに2012年にベストワンになった。5回トップの『市民ケーン』が2位、『東京物語』が3位である。またソ連のジガ・ヴェルトフが1929年に作った実験的ドキュメンタリー映画『カメラを持った男』が選ばれたのも特徴的。
この順位が絶対の基準だとは僕は全く思わない。ヒッチコックの『めまい』が世界映画史上のトップなのだろうか。ヒッチコックの中でも他に素晴らしい映画があるのではないか。『市民ケーン』や「東京物語』『ゲームの規則』の方が社会性を考えて評価するとずっと上だと思う。それよりもフェリーニなら『甘い生活』、ゴダールの『気狂いピエロ』などもっと好きな映画はいっぱいある。それでも一応の目安として、映画を見るときの参考にはなるかもしれない。(ところで、『カメラを持った男』は未だに見てないんだけど。)今回は資料編で、続いて2022年版を紹介したい。
実はイギリス映画協会の「サイト&サウンド」という雑誌が、1952年に始まって10年ごとに「世界映画ベストテン」を選出する試みを続けている。それは偏った部分もあると思うけれど、そこも含めて「世界で映画がどのように見られて来たか」を示すものとなっている。10年ごとというと、つまり2022年が最新の選出年である。今年の結果はある意味で当然、ある意味で衝撃的なものだった。それを紹介する前に、まず1952年から2012年までを振り返ってみたい。(批評家選出部門を見る。)
以下、題名と監督名を示す。最初に出て来たときだけ太字にしてある。つまり、1952年は全部太字だが、それ以後は新たに入選した作品だけが太字。当然ながら、その年以後に作られた映画は入らない。しかし、それ以前の映画でも新たに評価が高くなった映画、逆に評価が落ちた作品が存在する。例えば1962年から2002年まで1位に選ばれたオーソン・ウェルズの『市民ケーン』(1941)は1952年には選ばれていない。その後に、この映画の革新性と完成度の高さが世界で認められて行ったのである。
(『市民ケーン』)
1952年
①自転車泥棒(ヴィットリオ・デ・シーカ)②街の灯(チャーリー・チャップリン)③チャップリンの黄金狂時代(チャーリー・チャップリン)④戦艦ポチョムキン(セルゲイ・エイゼンシュテイン)⑤イントレランス(D・W・グリフィス)⑤ルイジアナ物語(ロバート・フラハティ)⑦グリード(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)⑦陽は昇る(マルセル・カルネ)⑦裁かるるジャンヌ(カール・ドライヤー)⑩逢びき(デヴィッド・リーン)⑩ル・ミリオン(ルネ・クレール)⑩ゲームの規則(ジャン・ルノワール)
★寸評 イタリアの「ネオ・レアリズモ」の代表作『自転車泥棒』がこの時だけベストワン。チャップリンの古典が高く評価されているのも時代を感じさせる。無声映画が半数ほどを占めるのも古い感じがする。
1962年
①市民ケーン(オーソン・ウェルズ)②情事(ミケランジェロ・アントニオーニ)③ゲームの規則(ジャン・ルノワール)④グリード④雨月物語(溝口健二)⑥戦艦ポチョムキン⑥自転車泥棒⑥イワン雷帝(セルゲイ・エイゼンシュテイン)⑨大地のうた(サタジット・レイ)⑩アタラント号(ジャン・ヴィゴ)
★寸評 初めてオーソン・ウェルズ『市民ケーン』がベストワンに選ばれた。またアントニオーニ『情事』が1960年の映画にもかかわらず2位に選ばれている。日本映画で溝口健二『雨月物語』が4位入選。以後、毎回日本映画が選出されている。
1972年
①市民ケーン②ゲームの規則③戦艦ポチョムキン④8 1/2(フェデリコ・フェリーニ)⑤情事⑥ペルソナ(イングマル・ベルイマン)⑦裁かるるジャンヌ⑧偉大なるアンバースン家の人々(オーソン・ウェルズ)⑧キートン将軍(バスター・キートン)⑩雨月物語⑩野いちご(イングマル・ベルイマン)
★寸評 『市民ケーン』が1位、『ゲームの規則』が2位というのがこの後しばらく定着する。『ゲームの規則』は日本では岩波ホールで1982年公開と遅れたが、フィルムセンターで見ることが可能だった。確かにジャン・ルノワール監督の最高傑作だと思う。ベルイマン作品が2本入選しているのも70年代を思わせる。
(『ゲームの規則』)
1982年
①市民ケーン②ゲームの規則③七人の侍(黒澤明)③雨に唄えば(スタンリー・ドーネン、ジーン・ケリー)⑤8 1/2⑥戦艦ポチョムキン⑦アタラント⑦偉大なるアンバースン家の人々⑦めまい(アルフレッド・ヒッチコック)⑩キートン将軍⑩捜索者(ジョン・フォード)
★寸評『雨月物語』に代わって、日本映画では『七人の侍』が選ばれた。またヒッチコック『めまい』、ジョン・フォード『捜索者』が初選出。二人ともたくさんの娯楽映画を作った監督だが、この頃からこの2作がそれぞれの代表作と見なされるようになった。公開当時はどちらも不評で失敗作と見なされていた。
(『めまい』)
1992年
①市民ケーン②ゲームの規則③東京物語(小津安二郎)④めまい⑤捜索者⑥アタラント号⑥戦艦ポチョムキン⑥裁かるるジャンヌ⑥大地のうた⑩2001年宇宙の旅(スタンリー・キューブリック)
★寸評 欧米への紹介が遅れた小津安二郎だが、80年代に「発見」され『東京物語』が上位選出の常連となった。またキューブリック『2001年宇宙の旅』が公開20年以上経ってベストテンに入り、以後常連となる。
(『東京物語』)
2002年
①市民ケーン②めまい③ゲームの規則④ゴッドファーザー(フランシス・フォード・コッポラ)⑤東京物語⑥2001年宇宙の旅⑦戦艦ポチョムキン⑦サンライズ(F・W・ムルナウ)⑨8 1/2⑩雨に唄えば
★寸評 公開30年目で『ゴッドファーザー』が入選した。一方で1927年製作の無声映画『サンライズ』が初めて入選。『戦艦ポチョムキン』とともに無声映画が2本となった。
2012年
①めまい②市民ケーン③東京物語④ゲームの規則⑤サンライズ⑥2001年宇宙の旅⑦捜索者⑧カメラを持った男(ジガ・ヴェルトフ)⑨裁かるるジャンヌ⑩8 1/2
★寸評 ヒッチコック『めまい』が7位、4位、2位と上昇してきて、ついに2012年にベストワンになった。5回トップの『市民ケーン』が2位、『東京物語』が3位である。またソ連のジガ・ヴェルトフが1929年に作った実験的ドキュメンタリー映画『カメラを持った男』が選ばれたのも特徴的。
この順位が絶対の基準だとは僕は全く思わない。ヒッチコックの『めまい』が世界映画史上のトップなのだろうか。ヒッチコックの中でも他に素晴らしい映画があるのではないか。『市民ケーン』や「東京物語』『ゲームの規則』の方が社会性を考えて評価するとずっと上だと思う。それよりもフェリーニなら『甘い生活』、ゴダールの『気狂いピエロ』などもっと好きな映画はいっぱいある。それでも一応の目安として、映画を見るときの参考にはなるかもしれない。(ところで、『カメラを持った男』は未だに見てないんだけど。)今回は資料編で、続いて2022年版を紹介したい。
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