幼いころに思い描いた夢のとおりに、今、自分が歩いていたとしたら
それはとっても素敵なことです。
バーバラ・クーニー作 『おおきな なみ』 は、クーニーが自分のお母さんの、
小さかった頃の話を元に作った作品だそうです。
クーニーのおじいさんは、ドイツからアメリカに渡って「成功した移民」。
なので、主人公のハティー(この少女がクーニーのお母さん)は、両親、兄弟と共に
お手伝いさんが居る大きな家で暮らしています。休日には、親戚が大勢集まって
何時間もかけて食事をした後、シタンのピアノの上の油絵を見たり、夏服が
出来上がるのを待って、海辺の町へ避暑へ出かけたりするような生活です。
ある年、お父さんが、今までの夏の家よりもさらに大きな「新しい夏の家」を買いました。
お姉さんは「プリンセスみたい」と大喜びしますが、ハティーだけは嬉しいのかどうか
わかりません。なぜかというと、今までの夏の家のそばの浜辺がとても好きだったから。
それにお姉さんはおしゃれも大好きだったけど、ハティーが好きなのは、なにより絵を描くことでした。
年頃になり、お姉さんはお嫁入りし、弟はお父さんの仕事を手伝うようになり、
ハティーは、お父さんが建てたブルックリンのホテルの最上階で、両親と共に暮らします。
(窓からイーストリバーが見下ろせる、相変わらず贅沢な暮らしです)
そしてある日、それは、突然ハティーの前に現れました。
両親と共に出かけたオペラ劇場で、若い女性歌手の歌声が、ハティーの心に染みたのです。
本文では、こんなふうに書かれています。
ハティーにもわかったのです。身も心も、じぶんの
すべてをはきだして、絵をかくときがきたのです。
翌日、ハティーはすぐに美術学校へと出かけます。手続きを済ませた後、今度は、
コニーアイランドへ向います。
海辺で、寄せてはかえす波の音を聞くよりも前から、ハティーの胸は高鳴っていた
ことでしょう。自分への期待と、すこしの不安。よせては、かえす波の音が、
どきどきという鼓動とともに、ページの間から聞こえてきそうな気がします。
どくっ・どくっ・どくっ・・・・と繰り返すそれは、ハティーのものだけではなく、
もしかしたら、私の鼓動かもしれません。幼い頃の夢のとおりでなくても、
「これからの」自分を夢見て、高鳴っている鼓動かも。
本文の最後は、とても素敵なハティーのひとことで締めくくられています。
ここまでくると、これは「お母さんのことを書いた話」だと知っていても、
ハティーがクーニー本人に思えてしかたありません。
このページは小さい頃のハティー。最初の「夏の家」。