ジャック・イベール(1890-1962)のフルートコンチェルトは1934年に、ゴーベールの指揮、パリ音楽院管弦楽団、マルセル・モイーズのフルートと言う考えられないほど、豪華な組み合わせで初演されています。
44歳のイベールは前年に、父を亡くしています。この曲の2楽章は、悲しみと平安に満ちています。
遠い世界への憧憬か、過去の思い出が鮮やかに浮かび上がってきては、また消えていく、そんな感じがします。
肉親の死は、死が現実の世界の続きにあり、命が有限であることを思い起こさせてくれます。
深い喪失感とともに。「いかに生き、いかに死ぬか?」と言う問いも突きつけられてきます。
私たちは必ず死ぬ。死なない自由はない。私という生命体、個人にとって、時間は有限です。
その中で、選択できることは、限られています。
真実をしると、人間というものは、落ち着くようです。腹がすわるというのか。
第3楽章は、力強い生命感に満ちあふれています。この生命感は2楽章の悲しみによって、より鮮やかに、立つ。そんな気がします。
何かを選びきった時、人間は素晴らしい力を発揮します。死という限界がその迷いを払拭させ、背中を押したのか。
イベールもその時、何かを悟ったのかもしれません。イベールだけが実現したイベールの音楽。
考えられない音の組み合わせ、でも美しい。彼らしい特徴の出た音楽となりました。