prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「瞳の奥の秘密」

2010年10月16日 | 映画
言葉の表現と言葉にならない表現とがせめぎあっている。
主人公が小説という形で描く回想と実際の出来事との間に齟齬があるようでもあり、描くことで改めて過去が立ち上がってくるわけでもある。

「A」の文字が打てないタイプライターの、その「A」の文字がどんな収まり方をするか、アル中の同僚が収集する詩的な表現、手紙の中に混ざる意味不明の人名から意味を汲み出すプロセス、などのシーンに見られるここにないものをあらしめる言葉の力。

一方で写真に写った被害者を見つめる男の視線から犯人の目星をつけるのがストーリーのエンジンになる(主人公とヒロインである上司の女性判事とが一緒に写った写真で、主人公がヒロインを見つめていたりもする)。
満員のサッカー場の客席から藁の山から針一本を探すより難しいと思われる捜索シーン(ここのカメラワークは神業がかっている)の一方、物的証拠のない中で犯人の視線の読み取りから言葉一つで追い込んでいく検事の手口。

死刑を廃止した社会でどういうことがありうるか、という考察的な面もあり、日本で死刑廃止論が広まらないひとつの理由ともつながっている(ミステリでもあるので曖昧な言い方になります)。

老けのメイクが見事で、なじみのない役者陣の演技も見事。
(☆☆☆★★★)