哲学専攻の大学院生が論文の指導教授のそそのかしで理由のない尾行をして観察の記録をつけることにし、その対象にマンションの向かいの豪壮な家に住む一流企業の若い部長を選ぶ。
尾行と、空間を隔てた向かい側の家と、ともに見るもの見られるものが一方的に固定された関係の上の観察、というモチーフとなると、ヒッチコックの「めまい」と「裏窓」を足したようなものとなる。
そしてヒッチコックがそうしたように一種の純粋な映画表現を求めるようにセリフに頼らずもっぱら映像の積み重ねによって描いていく緊張感が途切れない。
ときどき監視カメラの無機的な画面が入るのが、見ている側も含めてすべてを上から見ているようでおもしろい。
それもいかにもヒッチコック式に事前にコンテをがっちり固めた、作られた見たいものだけを見る撮り方ではなく、かなりラフに見えるロケ主体の意図しないものが見えてしまう体の撮り方で、レストランから出た愛人を追って素早くパンすると妻子がフレームに思わず入ってしまう無作為に見せたカットなどスリリング。
向かいの家の、自動車を停めているかなり広い、マンションの部屋全部ほどもありそうなスロープを斜め上から見下ろした空間感覚など秀逸。
ただし一方的に見るだけ、という虫のいい立場がいつまでも続くわけがなく、倫理的なしっぺ返しを当然くうことになるわけだが、ヒッチだったら基本的に初めから無倫理な価値観で統一されている世界だからおよそ倫理的な突っ込みはなされなくていいけれど、ここではもともと哲学の論文を書くための尾行なのだから、自分ひいては一般的な倫理についての考察がなされなければいけないわけで、これがどうもわかったようでわからない。端的に言って、ヒロインが書いた論文がそれほど優れたものと思えないのだな。
門脇麦が顔の毛穴やホクロが見えるような超クロースアップで捉えられているのが、尾行という行為とは裏腹に何かに耐えているような風情。
(☆☆☆★★)
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