「ゴッドファーザー」のプロデューサーのアルバート・S・ラディの自伝「The Offer」が原作だが、もう一人のプロデューサー、ロバート・エヴァンスの自伝「くたばれ!ハリウッド」ではコッポラによるファースト・カットが2時間しかなくて、これでは予告編だとエヴァンスが言い出し、コッポラが最初に提示した家族の物語にして3時間にしたと書いてある。だものだから映画館主たちが「映画を長くしろと言うなんて、エヴァンスという奴はLSDでもやっているに違いない」と言われたと。
しかしここでは普通に会社上層部が3時間では回転が悪いから2時間にしろと圧力をかけてきたのをしのぎきったという描き方になる。
どっちの言い分が正しいのか知らないが、あれだけ映画が成功すれば手柄は奪い合いになるということだろう。
映画会社のパラマウント自体が売却の対象になりそうになったり、イタリア系移民を侮辱するものだととい抗議がきたり、フランク・シナトラがマフィアに結び付けられるのを嫌ってと手を携えて圧力をかけてきたり、絶えずマフィアとの折衝に神経をすり減らしたり、今でこそ奇跡のキャスティングに見えるけれど、当時は不入り続きだったマーロン・ブランドに無名に等しかったアル・パチーノとそこに至るまでの大混乱ぶりに笑いながらよく完成したものだと思う。
ラディの秘書ジュノ・テンプルが縁の下の力持ち的な役割で有能なのに女性でしかもブロンドなものだから軽く見られている感じは今の視点。
マフィア関係はわからないが映画界の登場人物がわかる限りすべて実名というのが凄い。
ダン・フォグラーのコッポラがまだ大監督になる前の髭を生やした若造に見える。
マシュー・グードのエヴァンスがハンサムで調子がよい一方ですぐ激昂するキャラクターをよく出した。
シチリアロケにコッポラがこだわってついに勝ち取るまでの大騒ぎ、シチリアのレストランでここを使いたいと言い出してオーナーに借り賃50000リラと吹っ掛けられたと思ったら35ドルでしたという笑い。
アル・パチーノ役のアンソニー・イッポリトが、パチーノの上目遣いをそっくりに再現したのには笑った。パチーノが撮影の合間でも役から出ようとしないのは他の映画でもそうらしいが、そういうメソッド演技を他の俳優がまた再現するあたり、なんだかポップアートみたい。
完成した映画が大きな成功を収める場面、マフィアたちに見せる試写でニーノ・ロータの音楽だけ流してスクリーンは見せず、それぞれの泣いたり笑ったりする顔がずうっと続くシーン、そしてアカデミー賞授賞式でも壇上は見せずどきどきしている関係者一同の顔だけ映すあたりが含みを持たせて良い。
クリエーター・脚本はマイケル・トルキン。ロバート・アルトマンのハリウッドの皮肉な内幕もの「ザ・プレイヤー」の原作者で脚本家。
あれで成功したせいか、今回はドタバタぶりは残すが、ストレートな映画賛歌に近い。