ホラ話的展開にちょっとびっくり。これだと第二次大戦の終わり方が変わってしまうことになるのだが、気にしていない。
ナチ映画というのはヘンに格調高いもので、バタバタ人を殺しまくるっていうのは実際にはない。ヨーク軍曹というよりテキサス大学のチャールズ・ホイットマンみたいなノリで鐘楼から射的でもやるようにバタバタ敵を狙撃しまくるというのは、むしろ完全にアメリカ的センス。
カンヌで男優賞を取ったクリストフ・ワルツはフランス語と英語とドイツ語をとりまぜてそのたびに伊達男風、交渉人風、軍人風と多彩に演じ分けていて、そのころころ変わるところがストーリー展開にも反映してくるわけでもあって、トクな役。
昔の第二次大戦ものはうるさいくらい英語以外の言語に黄色で字幕がつく。わざわざアメリカ人が英語以外しゃべらないのをからかうセリフすらある。
また、ドイツ人とイギリス人のちょっとした習慣の違いで正体がばれるというのも昔の戦争映画ではよくやっていた。
えんえんとちょっとどうでもいいようなセリフの応酬が続いたのがいきなり転調して瞬間風速的な暴力沙汰になるペースが独特。退屈しかけたところでいきなり眠気がふっとぶ。
モリコーネをはじめ、デヴィッド・ボウイの「キャット・ピープル」(に乗せてヒロインが復讐にあたって豹のヒゲのようなメイクをする)ほか、音楽センスがもともとなじみのある曲が多いせいもあって楽しめる。
やたら暴力・残酷描写が目立つ。必要もない一方で、露悪趣味でもない。単に好きなだけみたい。
作中のフランス映画特集で映画館の看板に出ている監督の名前はごく一部しか見えないがアンリ・ジョルジュ・クルーゾーだろう。
炎上する映画館でスクリーンが燃え落ちた後もたちこめた煙に呵呵大笑する女のアップが映写されるのが強烈(スモーク・スクリーン)。
「パルプ・フィクション」で時間軸がシャッフルされたもので殺された人間が平気で生きて出てくるあたりとも共通するセンス。死んでも死んでいないみたい。映画の中の人物のように。
(☆☆☆★★)
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