prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「MEG ザ・モンスターズ2」

2023年08月31日 | 映画
かなりとっ散らかった続編で、巨大ザメはともかく、巨大タコとかティラノサウルスまがいなんて正編に出てきたっけと首をひねった。
忘れているだけかもしれないが、爆裂弾とか、サメが桟橋の下に潜り込んで姿を見せないまま板が盛り上がるのを見せたりとか、「ジョーズ」を明らかに意識した場面をあれこれ詰め込んでいる。

潜り込んだスパイのやられ方が中途半端だったり、時限爆弾が爆発したりしなかったりというのはどうもモヤモヤする。
見せ場が必ずしもモンスターたちに絞り込めていないのだな。

海中基地で何を採掘しているのかというとレアアースで、この映画自体中国資本が入っているのを知っていると何のこっちゃと思わせる。
つまり世界のレアアースの採掘量の半分くらいを中国が占めていて、いくら中国が広いといってもそんなにあるわけがない。
レアアースの採掘には放射性物質がつきもので、その国の基準に合わせて処理するよう国際的な取り決めで決められているのだが、中国の基準などあってないようなものなので手を抜ける分費用を抑えられるというからくり。
それを海底から採掘したら高く売れるという具合にすり替えているのは、とぼけているのか何なのか。

ジェイソン・ステイサムが環境活動家というのはなんのこっちゃ。
古代で小型恐竜→大型恐竜→巨大サメと食物連鎖を見せておいて、連鎖を現代のステイサムにつなぐというのは笑った。

中国人代表のウー・ジンはどこかで見た覚えがあるなと思ったら「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」シリーズの主演監督でした。





「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」

2023年08月30日 | 映画
浅瀬に船が横転しており、その前で子供が磯遊びしているという画から始まるのだが、その船から錆の匂いが立ちのぼるようなのがJ.G.バラードの小説を思わせる。
クローネンバーグは直接バラードの小説「クラッシュ」を映画化したこともあるし、テイストあるいは匂いとして通底するのはもっとある。

母親が子供を呼び寄せる、その時のロングに引いたサイズが妙に不安定で不吉な印象で、事実その印象通りに展開する。

さまざまな肉体の部分改造みたいなのが出てくるのはおなじみだが、芸術家役ということもあってヴィゴ・モーテンセンがクローネンバーグその人に見える。
身体中あちこちに耳をくっつけて踊るダンサーが出てくるのだが、見ようによっては「スキャナーズ」の周囲が考えることが強引に頭の中に入り込んでくる図のアレンジとも見える。

昔クローネンバーグが作った実験映画で同じタイトルがあったのだが、内容は関係ない。





「#ミトヤマネ」

2023年08月29日 | 映画
SNS時代のインフルエンサーが主役だが、少しずつ描写が現実離れしている。

たとえば主役姉妹が人目を避けてとじ込もっているところにヘルメットに手拭いでマスクした中年男たちが押しかけてくるところなど、70年代安保闘争のデモ隊か何かと思った。
男たちの頭の中の時代が今とは明らかにずれている、あるいは意識的にずらしている。

姉が玉城ティナ、妹が湯川ひなの姉妹がかなり似ている、というか髪型など似せているわけで、それでいて混乱しないのは玉城ティナの不自然なくらい色白でくっくりしたエキゾチックな顔立ちのせいで、インフルエンサーとして表に立つのも姉という役割に合っている。

インフルエンサーをことさらに影響力ありげに描いているわけではなくて、単に迷惑なもので心ここにあらずという感じで習慣的にスマートフォンを妹に向けたりする。

ビジネスとしてコラボを呼びかけてくる相手が導入したアプリが暴走したりするのだが、それほど悩んでいるようでもなく単に迷惑そうなのがかなり新鮮。









「幾多の北」

2023年08月28日 | 映画
現代美術をアニメにしたみたいというか、断片的なつぶやきが浮かんでは消えるといった感じ。
字幕が横書きで出るのだが、サイレント映画のそれとは違って、かなり画と意味をずらしてある。作家の解説の調子も現代美術みたい。

併映の「ホッキョクグマすごくひま」がキャラクターデザインが割と可愛くてとっつきやすい分、当惑しましたね。





「リボルバー・リリー」

2023年08月27日 | 映画
シシド・カフカの綾瀬はるかに対するセリフで「偕老同穴」というのがあったので、あれ普通は老夫婦が共に老いて死んだあとは同じ穴=墓に葬られるという意味だと思ったけけれど女同士でも使うのかな。

原作は相当に長くて、まとめるときに苦心した跡を見られる(フラッシュバックの不適切な使用とか)が、それでも長すぎる。

銃撃戦で相手側がよけも避けもしないでほぼ棒立ちなのは気になった。
綾瀬はるかが相変わらずの身体能力の高さを見せるだけに違和感がある。

美術セット、衣装は相当に凝っていて、衣装屋の野村萬斎の出番は少ないけれど印象的。





「マイ・エレメント」

2023年08月26日 | 映画
四大元素といったら火、水、土、風なわけだが、このうち土と風は画にしにくいせいか影が薄い。

まるで「ウェストサイド物語」みたいに火のキャラクターのエンバーと水のキャラクターのウェイドが経済的格差から何から何まで対照的で、エンバーは韓国系の監督の父親がモデルらしいが、父親の言うことをよく聞く、というか聞くものだと刷り込まれているあたりは儒教っぽい。
父親が家父長らしく伝統を守ろうとしているが異国にいるせいか妻に尻に敷かれたりしてどこか立場が弱い。

一方でウェイドは金持ちだけれど、というか金持ちゆえの育ちの良さが出た。

火や水の向こう側が透けて見えたり、不規則に(そう見えるだけだろうが)ちらちら動いたりする高度な表現をさりげなくやっている。





「君たちはどう生きるか」

2023年08月25日 | 映画
吉野源三郎の原作を読んだのはずいぶん前、宮崎駿がアニメ化すると伝えられたより前なのだが、いったいあれをどうアニメ化するのだろうと不思議でもあったが、ほぼ関係ありませんでした。

原作が発表されたのは昭和12年、日中戦争が始まり軍国主義が本格的に台頭してきたのに対して教養主義・自由主義の立場を守るものだったのだが、ここでは「風立ちぬ」の世界に準じてもう少し後の時代に設定され軍国主義色に染まっている。
父親が軍需工場長で大勢の使用人(全部女)だったり、当たり前のように戦前のいい暮らしをしている様子が描かれている。

初めのうちリアリズムなのだが、途中からシュールレアリスムが入ってきて、時代設定から国籍から自在に混淆交錯するようになる。

広告でネタバレを一切しないようにしていたが、見通してみるといつもの宮崎駿作品という印象は強い。




「バービー」

2023年08月24日 | 映画
実をいうとバービーという女の子が遊ぶ人形の存在は知っていたが、それにケンという相手役がいるというのは知らなかった。

まず人工的なヴィジュアルに度肝を抜かれた。ここまで徹底して人工的なのって、ちょっと記憶にない。あるとしたら昔のミュージカルくらいか。

グレタ・ガーウィグのこれまでの作品系譜からフェミニズムという切り口から見るのが一般的なのだろうけれど、ミュージカル・コメディとしてのレベルと完成度も見逃せない。

ミュージカルというと「夢物語」というのが定番だし、人形遊びをしていた女の子にとってはこれが夢の世界ということになるのだろうが、その遊んでいた女の子が成長して姿を現すまでしばらくかかる。その間、バービーは女の子から切り離されて夢の中のパーフェクトな存在として冒頭にいる。
シャワーから実際には水が出ないなど、ヴィジュアルをちょっとでも乱すことは排除される。

ケンたちがいわゆる有害な男らしさに囚われる展開は、キャラクターとしては文字通りお人形だからかえって深刻になりすぎない。

バービーもケンも股間がつるつるという設定は、「ブックスマート」の劇中の人形としてもろに見せていたなと思った。

最初のうちはバービーもお肌が不自然につるつるで、そのうちわずかにささくれは入ってくる。かといってリアリズムには決してならない。

バービーのメーカーの役員会が、日本の女性活躍会議とかいうメンバー同様に男ばっかというのに笑ってしまう。
笑いごとではないが。

遊び相手の人形の側から遊びの主を探し出すという倒錯して錯綜した作劇というのを、改めて思いなおしてみる。

ところで、見ていて突飛かもしれないが「ゴーストバスターズ」の全部女性キャストにしたリメイクでクリス・ヘムズワースがやっていた「意識的に」おバカキャラとして演じていた役にケンがちょっとだぶって見えた。






「高野豆腐店の春」

2023年08月23日 | 映画
舞台は尾道、「東京物語」の尾道であり、大林宣彦の尾道でもある。
藤竜也が頑固そうで案外柔らかい、身がしっかりした豆腐みたいな父親を演じ、麻生久美子が礼儀正しい、芯が通ったところを見せる。
豆腐を作るあたりのロケ撮影や一仕事終わって暖かい豆乳を飲むところなどいい感じ。

高野豆腐と書いてたかの豆腐と読ませる、こうや豆腐ではないのが可笑しい。

藤の仲間がコミカルな味をつけ、中村久美が陰翳をつけたのとバランスをとっている。
なんでも藤竜也はロケハンにも同行したそうで、手作り感が出ている。




「しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 とべとべ手巻き寿司」

2023年08月22日 | 映画
ノストラダムスの隣町に住んでいたヌスットラダマスが「20と23が並ぶ年に天から2つの光が降り、世界に混乱がもたらされる」という予言を残したというところから話が始まるわけだが、まあ本家ノストラダムスの滅亡の予言の広い意味の続きということになる。

ある意味はなばなしいイメージの滅亡ではなくショボいだらだらした恰好悪く生き延びるだけは生き延びるという形になる。
実際、オウムが滅亡を人為的にもたらそうとしたのを曖昧に処理してきた延長線上に統一協会問題があると思っている。前後関係からいけば逆だが。

非正規でティッシュ配りしている非理谷充(非リア充)というキャラが声を演じている松坂桃李に似ていて、これが超能力を持つと一挙にリア充化する。役者としての充実ぶりを先回りして用意してるようですらある。

「オトナ帝国の逆襲」で野原ひろしがかつての二十一世紀のイメージに閉じこもって、実際に来た二十一世紀に失望しかしていないところから始まったみたいに、このシリーズ、意外と?ネガティブ寄りのモチーフをしんちゃんがあくまでノー天気に表に立てて活躍して終わらせるというのは結構な力技だと思う。

3DCGはそれなりに迫力はあるけれど違和感はぬぐえない。というか、なんでわざわざ使う必要あるかなと思ってしまう。




「星くずの片隅に」

2023年08月21日 | 映画
香港というと一国二制度の形骸化という大きな状況の変化が先に立つ印象だが、コロナ下の市井の人が表面的には何事もなかったように過ごしているのを淡々と、しかし味わい深く描く。

かつての香港映画からするとすごくおとなしい印象。






「ミンナのウタ」

2023年08月20日 | 映画
ダンス&ボーカルグループ「GENERATIONS from EXILE TRIBE」のメンバー7人が本人役で主演しているのだが、まずオープニングとラストの巨大会場を埋めた観客の数に圧倒される。
これだけの数の観客動員するのって、容易ではないだろう。CGでも使っているのかと疑ったわ。

もっともその間にはさまる展開はなんか時間が妙に意味なく前後したりしてぎくしゃくしている。そのあたり同じ清水崇監督の「呪怨」が時間の交錯に関しては振り切っていた。

少女の不気味な歌が録音されたレトロなカセットテープが発見されるところからストーリーが展開するのだが、この少女が住んでいた古びた家の風情で場面がループするところなど、ショックシーンで締めくくって相当に怖い。





「シモーヌ フランスに最も愛された政治家」

2023年08月19日 | 映画
時間軸に沿ってではなく、交錯させるのは「エディット・ピアフ 愛の賛歌」と共通するオリビエ・ダヤンの手法ということになるだろうが、アウシュビッツに収容されていた過去の体験と、各政治的功績がそれぞれ塊になって同時進行していくような印象をもたらす。
こういう体験をしていたからこういう政治的立場をとったというような理由づけを必ずしもしていない。

フランスで中絶がついこの間まで禁止されていたとは知らなかった。
と同時に、なんで男性議員がああもいきり立って反対するのか、しなくてもいいのにと「軽く」考えていた意味についても改めて知らないとなと思った。





「658km、陽子の旅」

2023年08月18日 | 映画
さむざむとした冬の風景は文字通りアニェス・ヴァルダ「冬の旅」を思わせたりもするが、行き倒れて終わるあれに比べたらまだ人情味があるように思う。
性暴力を受けたり十分にイヤな目にはあっているにせよ。

ヒッチハイクで青森まで行くのって、どの程度危険を伴うのか、命があるだけいいというより、命が鉋で削られるのに近い。





「激怒」

2023年08月17日 | 映画
アメリカに流されて帰ってきたら浦島太郎状態と、暴力刑事が懲罰的な島流しにあうのは「ダーティハリー」の一作目のラストが明らかにそれなのだが、シリーズが続くにつれてしれっと続けることが優先するようになり、他の暴力刑事ものの定番になった。

「ダーティハリー2」の白バイ警官みたいに町内会が安心安全を口では唱えながらリンチに走っているわけだが、その意味では先祖帰りの感もある。

三機のジェット機が飛んでいるあたりが象徴するように軍事=右派=全体主義くさい。主役の刑事も暴力的には違いないのだが、あくまで個であって仲間はいても集団化はしない。