prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」

2020年07月31日 | 映画
カンニングの映画というのは前にもあったけれど、主人公(ヒロイン)がずば抜けた秀才で余裕で高得点をとった答案を他人の知らせることで金を稼ぐという切り口は新鮮だった。

タイでも受験競争は大変なのかという感慨から、高学歴→高収入の仕事というコースに必ずしも女性は乗れない→手っ取り早く金を稼ぐためにカンニングを利用する、というロジックで、映画の作り方とするとおそろしくめぐるましい編集で見せるのだけれど、本質的には真面目な落としどころに着地する。

ヒロインの父親が実直な教師で娘に対する愛情がじんわりと伝わってくるのも支えになっている。




「バルーン 奇蹟の脱出飛行」

2020年07月30日 | 映画
東西冷戦下、東ドイツから気球で西ドイツに脱出した一家の実話。
冒頭で一度失敗して当局(悪名高いシュタージ=国家保安省)の捜索が始まる中で再度挑戦する追いつ追われつの基本的なサスペンス仕立てが明快。
家族で脱出するので、小さな子供がぽろっと秘密を言ってしまったり、家族間でも意思疎通に齟齬があったりするのもサスペンスに結びつく。

シュタージの監視システムの徹底ぶりは聞いていたが、お向かいさんがシュタージだったり、店で買い物するにも監視の目が光っていたりで、ああこんなところからは逃げ出したいと本当に思わせる。

お向かいさんのテレビを改造してやって、シュタージでもあるおっさんが西側で放映している「チャーリーズ・エンジェル」を見て彼女の髪の色は茶色かと思ったら赤毛だったんだな、白黒テレビで見てたらわからなかったなどと言って喜ぶあたり、シュタージといっても普通のおっさんだし、また普通のおっさんがシュタージなのだとわかる。

エンドタイトルでspecial thanksとしてローランド・エメリッヒの名前が出てきて、あれと思った。

シュタージの指揮官の中佐役が「コマンドー」のバーノン・ウェルズそっくりなのがなんだかおかしい。




「殺人者の記憶法」

2020年07月29日 | 映画
アルツハイマーで記憶がもたない元殺人者の娘が現役?の連続殺人者に狙われるという形で絡むという設定が巧みで、自分自身の罪と娘に迫る殺人者がだぶるのと、記憶と現在がだぶるのとがさらに二重写しになっている。

殺人者が目の前にいるのがわかってもそれを忘れてしまうサスペンスというのはあまり前例がない。
主人公がおっさんのソル・ギョングで、若い殺人者がイケメンのキム・ナムギルが娘に迫るいらだちを加えた趣向も上手い。

メメントみたいな趣向でもあるけれど、それをさらに発展させているわけで、知恵のある作り手というのはいるものだと思う。





「MOTHER マザー」

2020年07月28日 | 映画
長澤まさみが自転車に乗って長い脚を強調してくる登場から5%増(当社比)という感じで役作りで身体を少し緩めたのかもだが、あれだけ荒れた生活していて髪の毛に白いものが混ざっても老けないというのもスター映画とリアリズムの折衷なのだろう。

よくある演技派転向とか汚れ役といった妙に行き過ぎるのを避けてエロくて綺麗なのとを混淆している。
これとコンフィデンスマンJPが並んで上映していて、どちらも客がきているのだから東宝としては育てがいがあったというか。

大森立嗣監督はデビュー作の「ゲルマニウムの夜」を博物館動物園駅の近くの仮設映画館一角座で見て、凄惨なリアリズムというかエクストリーム感に感心した一方でこの調子でずうっといくのは見る側もキツいぞと思ったら、「まほろ駅前」ものなどのバディもの、「日日是好日」みたいにとっつきやすい路線も混ぜていて、これもその際を狙った感じ。

正直、これ警察沙汰じゃね?と思うところがたびたびあるし、あそこまで公的支援が役に立たない(当人たちが介入を避けているにせよ)と思わされたら困るなと、社会問題を問うタイプの映画ではないのを承知で言いたくはある。

ブレイディみかこの著書でイギリスだと明らかに子供を育てる意欲や能力のない親からは強制的に子供ほ引き離すし、それが役所の職員の点数になったりするというのを聞いていて、それはそれで行き過ぎな感じはするが、少し視野を狭く区切りすぎているとは思う。

母と息子の共依存というのはそれ自体突き詰めるにはややありふれ過ぎていて、その先を見たいと思う。

大きなお世話だが、大森監督(と、大森南朋)の母親って麿赤兒夫人なのだから、どんな人なのだろう。




「ミネソタ大強盗団」

2020年07月27日 | 映画
ジェームス兄弟、ヤンガー兄弟など義賊気取りだし、民衆もちやほやするが、いざ捕まったとなると見せ物の動物扱いになるあたりの手のひらの返しかたが皮肉。

監督・脚本のフィリップ・カウフマンは歴史学を学んだそうだが、蒸気オルガンなんて珍しいアイテムの再現や、ジェシー・ジェームスが何発の弾丸を受けたか、その数字にこだわるあたりも、リアルな方から逆に伝説の誕生を暗示しているよう。

アクションシーンは同じモチーフの「ロング・ライダーズ」ほどスタイリッシュではないが、街の人間が強盗が来たとなると全員銃を持って撃ってきたり、議会がまるっきり金持ちの私利私欲で動くところや、追跡してくるピンカートン探偵社が事実上の私兵であることもアメリカらしい。




7月26日のつぶやき

2020年07月26日 | Weblog
 



「はちどり」

2020年07月25日 | 映画
ヒロインが通う習字塾の先生が書く、日本人ならたいてい読めるくらいの漢字を生徒は読めないくだりがある。
韓国ではある時期から漢字をやめてハングル一本にしたものだから、昔の文献が読めなくなった弊害が出たというが、先生の本棚にマルクスの「資本論」が置いてあるのが目を引く。
漢字だから日本人には読めるが、韓国人にはわからないことも多いのではないか。
この女性教師がどういう経緯で今の境遇にいるのか、暗示するヒントというわけだろう。

学校の教師がカラオケ行くならソウル大学に行けとうるさく連呼させるのが日本でもありそうでもっと徹底している。
父親や兄など男がかなり平気で妻や妹に手を上げたり大声を出す男尊女卑の感じも同様。

ロングに引いた画がよく決まっている。全体にアップが多い(中学生の女の子だから産毛が生えた肌がきれい)ので、時にはさまるロングがいいアクセントになる。

ヒロインが左利き(それでキャスティングしたわけでもないだろうが)なのが何気に周囲との違和感になっている気もする。

淡々とした調子で画面が展開していって、かなり唐突に断ち切るように違う局面になる。叔父がいきなり来ていきなり帰っていくところに始まり、同性愛的な感情を吐露した後輩がいきなり嫌いになったりで、もっとも衝撃的な出来事も唐突に起こるがそれはいったん淡々とした時間に還元され、未来への予感として残る。




「ビリー・リンの永遠の一日」

2020年07月24日 | 映画
一時劇場公開が見込まれていたのだけれど、結局見送られてビデオスルーになり、CSで見ることになった。BS12でもやったらしい。

アン・リー監督作とすると「ジェミニマン」に先立ち毎秒120フレームの映像を部分的に採用したもので、上映できる映画館が限られたという事情もあったようだが、出来が今一つということもあるのではないか。
いずれにせよ、単純にテレビ画面で見ている分にはあまり関係ないが。

イラク戦争で英雄扱いされ、アメフトのハーフタイムに行われる国威発揚のアトラクション・ショーに駆り出される羽目になった小隊を、そのひとり若いビリー・リンの主観でイラクの体験などを交錯させながら描く。

テーマとすると「父親たちの星条旗」や、もっと遡ればそれこそ「西部戦線異常なし」などの、戦場に行きもしない連中ほど「英雄」を戦争宣伝に使いたがり、戦場の悲惨さの実体験を否定したがるご都合主義を描いているわけだが、過去と現在を行き来する構成がどうも持ってまわった感じで、もうひとつピリッとしない。

とはいえ、アメリカ国内でハンバーガー焼いているより軍隊にいた方がマシというあたりや、おそらく故郷では見たこともないような御馳走を見せられて何ともいえない顔をしているあたりはヒリヒリした実感が出た。

ショーの仕掛けで花火が破裂したりガスが噴出したりするとPTSDを抱えた兵が発作を起こすあたりに、国威発揚の傲慢と無神経が典型的に出た。

ショーに三人の女性歌手が駆り出されてその中の一人がビヨンセというのだが、実物のビヨンセ自身ではなく、Elizabeth Chestangという人がやっていてほとんど後ろ姿なのが微妙に中途半端。

安い言葉を並べても金をちゃんと出すかどうかで本心がわかるというのは、最近の日本のコロナ禍での医療関係者の待遇にも通じる。





「ルドラマデーヴィ 宿命の女王」

2020年07月23日 | 映画
CSで見たらバックが妙に浮き立った書き割りみたいな人工的な画面が続くので、何だろうと思ったらもともと3Dなのだという。

インド製スペクタクルとしては男として育てられた王女を主人公にしたのは異色。それを守るワル寄りで腕っぷしが強いのがついているのは「バーフバリ」のバーララデーヴァをやっていたラーナー・ダッグバーティ。

世界的なフェミニズムにも配慮しつつ、マッチョアクションも抜け目なく入れている感じ。




7月22日のつぶやき

2020年07月22日 | 映画



「ワイルド・ローズ」

2020年07月21日 | 映画
ヒロインが歌うのがカントリー&ウェスタンだと紹介さるたびに(ただの)カントリーだと訂正する繰り返しがギャグが、アメリカが本場のC&Wではなく、イギリスという国・地元独自の歌であることに目覚めるドラマに着地する。

ヒロインは相当にどうしようもないホワイトトラッシュなのだけれど、不思議と憎めない。歌の力もあるが、寅さんみたいに実際にいて迷惑な人はドラマで見ると意外と魅力的になったりする。。
掃除婦として働く金持ちの家の女主人が黒人というのが意表をつく、というかイギリスではもう当たり前になっているのかもしれない。

パーティから逃げ出したヒロインか道を歩いていき木立をはさんでパーティが続いているのを大俯瞰で捉えたカットが二つの世界の世界の断絶を鮮やかに画にしている。

偶然なのだろうけれど、先日見た「カセットテープ・ダイアリーズ」同様、音楽が国境も人種も超える先達になっているのをありありと示した。




「ラプチャー 破裂」

2020年07月20日 | 映画
蜘蛛嫌いの主婦が突然何者かに拉致され縛られて監禁されて、顔に蜘蛛を乗せられて恐怖に悶絶する、それを繰り返すうちに主婦の身体に奇怪な異変が起きて、という解説の筋が面白そうなので見てみたのだが、なんとそれで話は全部。

拉致したのが何者で、何が狙いでそういう実験をしたのか、異変が起きたのはCGで変な顔になるからわかるけれど、それがどういう性格のもので何を狙っているのかさっぱりわからない。
わからないから怖いとか何かを想像させるというものでもなくて、単にちゃんと考えないで作ってるのではないかとしか思えない。

オープニングのアメリカの郊外の閑静な住宅街のカットで電信柱が映っているのが違和感があって狙ってそうしたのかと思ったが、買い被りだったみたい。

ノオミ・ラパスとかピーター・ストーメアといった一応名のある役者が出ていて、なんですか、この体たらくはという感じ。




「透明人間」

2020年07月19日 | 映画
透明人間そのものを描くのではなく、ストーカー的な透明人間につきまとわれて、周囲からはいもしない幻覚を見て錯乱して暴れているようにしか見えず、狂人扱いされるように追い込まれてていくヒロインの側から描くという切り口がコロンブスの卵的な新しさ。

昔の「ガス燈」みたいなニューロティックなサスペンスの再現みたいなのが面白く、異常な独占欲と支配欲の持ち主の男からどうヒロインが逃れるのかというドラマとしても見られる。

夫は自殺したというけれど、親族(つまりヒロイン)が確認しないのに死亡が認定されるものだろうか、とか、逃げる時に置き去りにせざるを得なかった飼い犬が世話する人間が屋敷にいなくなっても生き延びているのはなぜ、とか見ていて疑問に思うところがいくつも出てきて、後で一応つじつまは合うようだけれど、きちんと謎として売って後で説明するといった結構を成していないので、ちょっともやもやする。

透明人間といっても、カメラを一面にとりつけ撮影した映像を再現するシートを着ることで周囲に溶け込む究極のカメレオン状態なので、周囲から「見えない」invisibleが、透明ではない。
本当に人間が透明になったら目の部分も光が突き抜けてしまうから当人も何も見えなくなってしまうというパラドックスがあるわけだが、このカメレオンスーツではその心配はない。




7月18日のつぶやき

2020年07月18日 | Weblog



「ミッション・ワイルド」

2020年07月17日 | 映画
トミー・リー・ジョーンズ監督脚本主演で、製作がリュック・ベッソンという異色の組み合わせ。

三人の精神を病んだ女性たちを護送する役目をくじ引きでしょわされる羽目になった独身の醜女ヒラリー・スワンクがひとりでは難しいと、絞首刑になりかけていた無法者ジョーンズを助けて協力させようとするが、自由になった途端、案の定無法者は勝手を言い出す。
それを言いくるめて護送の旅をしていくのだが、話がスワンクから始まってジョーンズの方にすり替わってしまうという構成は疑問。

最近のスコセッシ作品を担当しているロドリゴ・プリエトの撮影は素晴らしい。