イランの街を走るタクシーを運転するのはこの映画の監督である世界的な映画監督のジャファル・パナヒ。何度となくイラン当局に公開禁止をくらっているので、生活のためにタクシー運転手をやっているのか、と思わせもする(余談だが日本の映画監督でタクシー運転手をしている人は実在する)。
しかし見ていくうちにちょっとづつ変なところ、違和感を覚えるところが混ざってくる。
あまりに淀みなく人の出入りとやりとりが間断することなく続くあたり、あまりによくできているし、固定されたフレームから外れずちゃんと位置に入る。
フェイクドキュメンタリーなのか、と思っていると、DVDのバイヤーが監督=ドライバーと交わす会話で、これは映画の撮影でしょうといった発言が混ざり、映画の中でこれが作られた映画であることに言及するメタ構造が入ってくる。
黒澤明がどうこうというセリフがあって、イランではどう受容されているのだろうと思う。
映画を学んでいる学生がネタを探して映画を見たり本を読んでいるというのに対してパナヒが、その見た映画はすでに撮られたものだし本はすでに書かれたものだ、それまでにないものだったら他を探さないと、とアドバイスするのだが、この映画自体がこの言葉を体現している。
小さなタクシーひとつが映像を通ることでイランの一面を切り取るばかりでなく、何を写すことができないのか、権力によって何を見せられなくなっているかを暗示し、さらに世界に繋がってしまう。
邦題から想像させるような人生の一コマを切り取ってくるといったニュアンスはなく、混沌とした世界をまるごとつかみ取ってくるような力技を見せる。
ミニマルな造りにいくつもの位相を重ね、検閲をかいくぐりしかもまったく小難しく見せない作者の頭の良さが冴える。すごい。
(☆☆☆☆)
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