力もなければ牙もなく、かろうじて尖らせた爪で血管を切って血をすすったり、交通事故で流れ出した血がしみこんだハンカチをすすったりで、これほど草食系のヴァンパイアは前代未聞に思える。わずかにやはり交通事故で出た血をパンに染ませて食べた「処女の生血」のウド・キアが先例としてあるが、こちらは女だから腕力でさらに劣る。
シアーシャ・ローナンをキャスティングした狙いもそのあたりにあるのだろう。とはいえ、「つぐない」の頃(13歳)の皮膚の薄い脱皮したての蜻蛉のような感じは薄れて、それなりに歳はとってます(といっても19歳)。弱い分、クライマックスでも受け身すぎて、物足りなさは残る。
歳をとらないから二人の女吸血鬼が親子のようでも姉妹のようでも友だちのようでもあって、関係が場面によってくるくる変わるのが面白い。
同じニール・ジョーダン監督の「インタビュー・ウィズ・ア・ヴァンパイア」が男同士なのと結果として対になっている。
孤島の荒涼とした岩場に流れる白糸の滝のようないくつもの小さな滝が真っ赤に染まるイメージが鮮烈。「女囚さそり 第41雑居房」でも似たような発想のイメージはあったけれど、技術的に比較にならないくらい進歩している。
そういった印象的なイメージが繰り返されるたびに少しづつ変化していくのが「お話」が少しづつああでもないこうでもないとこねくり返しながらできていくようで、語り手であるヒロインが少しづつ一種の作家になっていく物語としても読めるだろう。ジョーダンがもともと作家であり、脚本も兼ねた(アカデミーオリジナル脚本賞)「クライング・ゲーム」でもなみなみならぬ語り芸を示したのを思い出させる。
(☆☆☆)
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