prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「理想の女」

2007年03月31日 | 映画
男から男へ渡り歩く女に夫人たちが後ろ指をさす一方で夫たちが嬉々としてなびいていく“上流社会”の欺瞞の描写が辛辣。
オスカー・ワイルド原作(「ウインダミア夫人の扇」)らしく、アフォリズムに富んだセリフがふんだんに語られるが、語るのが一番いい気な身分である有閑亭主たちなのが皮肉。ゴシップ欄でよくオヤジ殺しと書きたてられるスカーレット・ヨハンソンを物知らずでプライドの高い若妻役につけたキャスティングがまた皮肉。
衣装・美術・撮影が内容と対照的に優雅に精練されている。

小道具の扇の使い方、クライマックスのヨットでの人物の出入りなど、よくできた芝居そのものの組み立て。
(☆☆☆★)


本ホームページ


理想の女 - goo 映画

「春夏秋冬そして春」

2007年03月30日 | 映画
同じキム・ギグク監督の「サマリア」が題名からしてキリスト教的だったのに対し、こちらは仏教的なモチーフ。といっても、人間の罪に目を向けるところはあまり変わりない。魚や蛙に石をくくりつけた放す場面など、アメリカでやったら動物保護団体が問題にするのではないか。
題名通りに季節と世代がぐるっと巡って元に戻るところが仏教的というのか。
目や口や耳に全部「閉」と書かれた紙を貼る儀式(?)が漢字の力を見せて面白い。

水の上に浮いた仏堂の造形と季節の表現は完璧と思える。国立公園にロケセットを建てたそうだが、まことに完璧主義的な画作り。
(☆☆☆★)



2007年4月に読んだ本

2007年03月30日 | 映画
prisoner's books
http://booklog.jp/users/macgoohan
2007年03月
アイテム数:75

■プロセス・アイ
著者:茂木 健一郎
登録日:03月01日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4198621039

■反=日本語論 (ちくま文庫)
著者:蓮實 重彦
登録日:03月01日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4480020438

■映画誘惑のエクリチュール (1983年)
著者:蓮実 重彦
登録日:03月01日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/B000J7G1HK

■Variety (1973年)
著者:南部 圭之助
登録日:03月01日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/B000J92RX0

■「映画評論」の時代
著者:佐藤 忠男,岸川 真
登録日:03月01日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4905943523

■長谷川伸論―義理人情とはなにか (岩波現代文庫)
著者:佐藤 忠男
登録日:03月01日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4006020848

■溝口健二の世界 (平凡社ライブラリー)
著者:佐藤 忠男
登録日:03月01日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4582765939

■完本 小津安二郎の芸術 (朝日文庫)
著者:佐藤 忠男
登録日:03月01日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4022642505

■映画とは何か―山田宏一映画インタビュー集
著者:山田 宏一
登録日:03月01日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4794203039

■映画について私が知っている二、三の事柄 (1971年)
著者:山田 宏一
登録日:03月01日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/B000J92YJW

■ぼくの採点表―西洋シネマ大系 (3)
著者:双葉 十三郎
登録日:03月01日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4924815039

■ぼくの採点表―西洋シネマ大系 (1)
著者:双葉 十三郎
登録日:03月01日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4924815047

■ぼくの採点表―西洋シネマ大系 (4)
著者:双葉 十三郎
登録日:03月01日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4924815055

■ぼくの採点表 2 1960年代―西洋シネマ大系
著者:双葉 十三郎
登録日:03月01日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4924815020

■タンゴ ピアソラ×ソラナス DVD-BOX
著者:フェルナンド・E・ソラナス
登録日:03月01日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/B000EHQV2K

■にせユダヤ人と日本人 (朝日文庫)
著者:浅見 定雄
登録日:03月02日 評価:5
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4022604166

■「朝日」ともあろうものが。
著者:烏賀陽 弘道
登録日:03月02日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4198618844

■電波利権 (新潮新書)
著者:池田 信夫
登録日:03月02日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4106101505

■大山倍達正伝
著者:小島 一志,塚本 佳子
登録日:03月02日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4103014512

■映画は世界語―紙ヒコーキ通信 (1983年)
著者:長部 日出雄
登録日:03月02日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/B000J7CQYM

■紙ヒコーキ通信 (2) (紙ヒコーキ通信 2)
著者:長部 日出雄
登録日:03月02日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/416339690X

■紙ヒコーキ通信〈3〉映画は夢の祭り (紙ヒコーキ通信 3)
著者:長部 日出雄
登録日:03月02日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4163424407

■映像の詩学 (1979年)
著者:蓮実 重彦
登録日:03月02日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/B000J8ISG6

■シネマの記憶装置
著者:蓮實 重彦
登録日:03月02日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4845979268

■監督 小津安二郎 (ちくま学芸文庫)
著者:蓮實 重彦
登録日:03月02日 評価:5
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4480080031

■映画が女と舞台を愛するとき (1980年)
著者:南部 圭之助
登録日:03月02日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/B000J893WO

■天才監督 木下惠介
著者:長部 日出雄
登録日:03月02日 評価:5
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/410337408X

■黒澤明vs.ハリウッド―『トラ・トラ・トラ!』その謎のすべて
著者:田草川 弘
登録日:03月02日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4163677909

■蓮実重彦の映画の神話学 (1979年)
著者:蓮実 重彦
登録日:03月02日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/B000J8JXJW

■複眼の映像 私と黒澤明
著者:橋本 忍
登録日:03月02日 評価:5
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4163675000

■24 -TWENTY FOUR- シーズン1 ハンディBOX [DVD]
著者:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
登録日:03月02日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/B0009YGWS6

■24 -TWENTY FOUR- シーズン2 ハンディBOX [DVD]
著者:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
登録日:03月02日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/B0009YGWSG

■24 -TWENTY FOUR- シーズン3 ハンディBOX [DVD]
著者:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
登録日:03月02日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/B000IU3946

■24 -TWENTY FOUR- シーズン4 ハンディBOX [DVD]
著者:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
登録日:03月02日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/B000IU394G

■定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー
著者:フランソワ トリュフォー
登録日:03月02日 評価:5
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4794958188

■映画のどこをどう読むか (ジブリLibrary―映画理解学入門)
著者:ドナルド リチー
登録日:03月02日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/419862125X

■精神と物質―分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか (文春文庫)
著者:立花 隆,利根川 進
登録日:03月02日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4167330032

■私説内田吐夢伝 (岩波現代文庫―文芸)
著者:鈴木 尚之
登録日:03月02日 評価:5
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4006020139

■パレスチナ・ナウ―戦争・映画・人間
著者:四方田 犬彦
登録日:03月02日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4861821053

■ヒルズ黙示録―検証・ライブドア
著者:大鹿 靖明
登録日:03月03日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4022501758

■外交敗戦―130億ドルは砂に消えた (新潮文庫)
著者:手嶋 龍一
登録日:03月03日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4101381143

■カラシニコフ
著者:松本 仁一
登録日:03月03日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4022579293

■知的生活の方法 (講談社現代新書 436)
著者:渡部 昇一
登録日:03月03日 評価:1
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4061158368

■ロッキード裁判批判を斬る (論駁)
著者:立花 隆
登録日:03月03日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4022555238

■武装解除 -紛争屋が見た世界 (講談社現代新書)
著者:伊勢崎 賢治
登録日:03月03日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4061497677

■ペスト (新潮文庫)
著者:カミュ
登録日:03月03日 評価:5
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4102114033

■蝿の王 (新潮文庫)
著者:ウィリアム・ゴールディング,平井 正穂,William Golding
登録日:03月03日 評価:5
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4102146016

■嵐が丘 (新潮文庫)
著者:エミリー・ブロンテ
登録日:03月03日 評価:5
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/410209704X

■生かされて。
著者:イマキュレー・イリバギザ,スティーヴ・アーウィン
登録日:03月04日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4569656552

■ストロベリーショート (ダ・ヴィンチ ブックス)
著者:素樹 文生
登録日:03月04日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4840114986

■失われた時を求めて〈10 第7篇〉見出された時 (ちくま文庫)
著者:マルセル プルースト
登録日:03月04日 評価:5
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4480027300

■諸怪志異 (1) 異界録 (アクションコミックス)
著者:諸星 大二郎
登録日:03月05日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4575931667

■諸怪志異 (2) 壺中天 (アクションコミックス)
著者:諸星 大二郎
登録日:03月05日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4575932469

■諸怪志異 (3) 鬼市 (アクションコミックス)
著者:諸星 大二郎
登録日:03月05日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4575936324

■諸怪志異 4 燕見鬼 (4) (アクションコミックス)
著者:諸星 大二郎
登録日:03月05日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4575939706

■トゥルーデおばさん
著者:諸星 大二郎
登録日:03月05日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4257905468

■スノウホワイト グリムのような物語
著者:諸星 大二郎
登録日:03月05日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4488023916

■謎とき『カラマーゾフの兄弟』 (新潮選書)
著者:江川 卓
登録日:03月05日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4106004011

■謎とき『白痴』 (新潮選書)
著者:江川 卓
登録日:03月05日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4106004658

■ドストエフスキー (岩波新書評伝選)
著者:江川 卓
登録日:03月05日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4000038583

■謎とき『罪と罰』 (新潮選書)
著者:江川 卓
登録日:03月05日 評価:5
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4106003031

■アンナ・カレーニナ (下巻) (新潮文庫)
著者:トルストイ
登録日:03月05日 評価:5
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4102060030

■殺す側の論理 (朝日文庫)
著者:本多 勝一
登録日:03月05日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4022608145

■中国の旅 (朝日文庫)
著者:本多 勝一
登録日:03月06日 評価:1
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4022608056

■子供たちの復讐 (朝日文庫)
著者:朝日新聞社
登録日:03月06日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/402260820X

■火車 (新潮文庫)
著者:宮部 みゆき
登録日:03月06日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4101369186

■龍は眠る (新潮文庫)
著者:宮部 みゆき
登録日:03月06日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4101369143

■日本共産党 (新潮新書)
著者:筆坂 秀世
登録日:03月12日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4106101645

■中国10億人の日本映画熱愛史 ― 高倉健、山口百恵からキムタク、アニメまで (集英社新書)
著者:劉 文兵
登録日:03月12日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4087203565

■日本共産党の研究(三) (講談社文庫)
著者:立花 隆
登録日:03月13日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4061830430

■24 -TWENTY FOUR- シーズン5 DVDコレクターズ・ボックス
著者:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
登録日:03月13日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/B000GBESQA

■マンハッタンのKUROSAWA―英語の字幕版はありますか?
著者:平野 共余子
登録日:03月14日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4860291832

■オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史
著者:パトリック・マシアス,町山 智浩
登録日:03月16日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4778310020

■中国の「核」が世界を制す
著者:伊藤 貫
登録日:03月16日 評価:3
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4569648681

■アメリカ政治の現場から (文春新書)
著者:渡辺 将人
登録日:03月26日 評価:4
http://booklog.jp/users/macgoohan/archives/4166601903

「ラストキング・オブ・スコットランド」

2007年03月29日 | 映画
政権をとった直後の演説でアミン(フォレスト・ウィテカー)が軍服姿で槍を持つところがちらっとあるが、実物のアミンがスーツ姿(!)でやはり槍を持って「アチョリ族の戦いの踊り」を踊っているブキミな写真を見たことがある。
言っては悪いが前近代的なアフリカの部族社会に近代社会のエゴイズムと兵器が持ち込まれて暴力が増幅された残虐さと混乱の象徴みたいな人物だったな、と改めて思う。
人食い場面といった扇情的なシーンはなくても、本当に怖い。これで腎不全で病院のベッドで死ねたのだから、なんだか納得がいかない。

アジア系の住人を追放するのに主人公の医者が反対すると俺のやることに口を出すなと言い、それで経済的な大打撃を受けるとなんで止めてくれなかったと怒り、止めましたというとなんでやめるまで止めなかったとくる。なんだか「ドラエもん」でのび太が寝坊してママに「起こたのに起きないからよ」と叱られ「起きるまで起こさないからだ」と言い返すのと同じリクツで、「子供」と言われるのがよくわかる。
「恐るべき子供」というほど文学的ではなく、思慮が浅く気分屋で残酷でエゴイスト、という悪い意味で幼児的な的な部分だけで動いているみたい。

PLOがハイジャックした飛行機の乗客が軟禁されていたウガンダのエンテベ空港をイスラエルの特殊部隊が急襲したサンダーボルト作戦は有名だが、それがああいう具合にストーリーに絡んでくるとは思わなかった。

主人公の医者がスコットランド人でイングランド人とごっちゃにされるのをひどく嫌う。そのくせ白人だから命が助かるのであって、イギリス人が政治的にアフリカにちょっかいを出しているのがはっきりわかるのと併せてなんともいえない感じ。

フォレスト・ウィテカーは「バード」で同じく実在の人物チャーリー・パーカーを演じているが、外観は特に似せようとはしていないのにどっちもひどくそれらしい。
(☆☆☆★★)



「そして、ひと粒のひかり」

2007年03月25日 | 映画
コロンビアの若い女が貧困からカプセルに入れた麻薬を飲み込んでニューヨークに密輸する運び屋を請け負うという苛烈な話だが、場合によっては仲間のように簡単に殺されて胃を割かれて麻薬を持っていかれるような状況の割に、親切なタクシー運転手やしっかりしたコミュニティの世話役がいたりして意外と危ない目に合わないのが、言い方は悪いがちょっと物足りない。
故郷での過酷な労働(花束を作る工場、というアイロニー)や、シケた彼氏との白けたデートなどのやりきれない感じの方がむしろ重みがある。

主役のカタリーナ・サンディノ・モレノは美人で好演。やや美人すぎるくらいで、別に稼ぎ方の誘惑がもっとあるのではないかなどと不謹慎なことを考えた。
(☆☆☆★)



「バス174」

2007年03月24日 | 映画
ブラジルの貧困層の恐るべき悲惨さと、刑務所が国家の暴力装置そのものとして機能しているのを、バスジャック事件のニュース映像とカットバックして描く、作者の意図と主張がはっきりしたドキュメンタリー。
犯人が投降しないのは、刑務所に行く方が恐ろしいからで、犯人の殺し方も不必要な見せしめ的残酷さと隠蔽体質がつきまとう。

直接の関係はないけれど、ペルーの日本大使館人質事件で突入後の特殊部隊が制圧後外からは見えない(もちろんテレビにも映らない)中でテロリストに何をしたか、というのが「お笑い日本の防衛戦略―テロ対策機密情報」で語られているけれど、見せしめのために首を切り落としたり、女性テロリストをレイプしたり、と、それはもう陰惨なもの。
口止めされたので頭がおかしくなった人質もいたとか。

この映画のメイキングで監督が語っているけれど、バスジャックだと四方八方から見ることができるので、密室でコトを済ませるわけにはいかなかった、というのがこの映画の作者が公権力と大メディアとの結びつきに割って入る余地を与えた、と言えそう。

「ダーティハリー2」の私刑警察のモデルは南米に実在した殺人部隊だそうだが、偏見か知らないが南米の警察・軍隊はなんか法が許す範囲を超えてリンチに走る傾向があるよう。
日本だって無縁なわけはないが。


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バス174 - Amazon

「さくらん」

2007年03月23日 | 映画
極彩色の画面作りが話題になっているが、意地の悪い見方をするとリアルな再現ができるだけの予算がないので美術上のアイデアでうまくカバーした、という感じもする。よく見ると壁や襖の質感が必ずしも十分ではない。日活時代の木村威夫×鈴木清順の仕事に近いか。
アイデア豊かではあるけれど、門の上の金魚鉢などもっと演出的に生かせなかったか。“鉢を出たら生きていけない金魚”=花魁が鉢を出て行くラストと門の上の金魚を結びつけないで、部屋の中の別の金魚で済ませてしまっている演出は水っぽい。

しばしば夜の月を見上げる構図が現れるが、たしか満月はなく新月に近い細い月だった気がする。月といえば女の象徴みたいなものだが、それがいつもかなりの程度欠けている、という表現だろう。
出てくる男たちが今風に淡白。

椎名林檎が音楽監督をつとめているが必ずしも新しがらないでタンゴほかモダニズム風。良くも悪くも画面と喧嘩はしていない。

色事の描写にえっちな感じがしない。裸を見せるのは風呂ばかりだし、セックスシーンのバックヌードだと、みんな身体が華奢な割に鬘や髪飾りがおそろしく大仰なのでお神輿をかぶってるみたい。

題名にもなっている桜の花の撮り方がちょっと物足りず。桜はえてして雲みたいに写ってしまいボリュームを出しにくいのはわかるが、作り物の方がそれらしかったりする。
コレ一年前に撮った桜かな、と思ったりした。CGとは思えず。
(☆☆☆)



「ヴェラ・ドレイク」

2007年03月22日 | 映画
「主婦マリーがしたこと」と話の内容がそっくりなので驚いた。舞台になっている時代も1943年に対してこれは1950年と近いし、石鹸水を胎内にポンプで送り込むという中絶の方法(げっ)も同じ。違うのは、ヒロインが善意の塊で旦那もいい人というところ。
戦争が背景になっていて人が日常的に殺しあっていた時代に、人助けで中絶した女性だけが罪を問われたという矛盾も作り手は意識しているかもしれないが、ちょっとはっきりしない。

主演のイメルダ・スタウントンほかの演技の水準の高さはすごいが、背景の説明的な描写がなく、今の日本の感覚だと中絶がそれほどの罪という感じがしないので、各人がどんな受け取り方をしたのか今ひとつ掴めず、克明な綴り方を見せられたみたいな曲のなさは免れない。
(☆☆☆★)



「ホンジークとマジェンカ」

2007年03月21日 | 映画
主人公ホンジークが誕生した時に東方の三博士みたいな感じで現れる三人の女神が置いていく三匹のネズミ(精霊)が、白(道徳的)と黒(いたずら好き)と灰色(笑い)という三つで、単純に善と悪ではないのが興味深い。

ホンジークが妖精のマジェンカに恋してどうしても会いたいと黒い精霊に頼んだらデビルマンみたいなコウモリ式の羽根と黒い角が生えた顔になってしまう、というのがあまり類のない展開。

歴史に記された英雄や権力者の記述からは抜けたものを描く、と宣言しているのだが、マルクス主義的に「庶民」の生活を描こうというのではなくて文字通り白黒つけがたい自由で詩情に満ちた世界を描こうとしているよう。
(☆☆☆★)


「小さな中国のお針子」

2007年03月20日 | 映画
ベトナム系のトラン・アン・ユンもそうだが、コンモポリタンな育ちでフランス映画界を根城にしているアジア系の映画人が自国(?)を半分外から、半分中からの視点で描く映画というのは美的に精錬されている一方でなんだかイヤミな感じを免れない。

文化大革命当時に僻地に下放されてモーツアルトやバルザックといった西洋的な教養を見せると命に関わる境遇でいインテリ青年たちが、現地の少女と恋に落ちて…という話だが、西洋から東洋を、インテリから田舎の少女を、それから男から女を見下すような図になっているわけで、「突然炎のように」風の男二人に女一人の三角関係の爽やかさや、少女の可憐さとイノセンスはそりゃ魅力的だろうけれど、ドラマとすると「上」の拠って立つ立場が結局崩れないのだから、(だからどうしたの?)と思ってしまう。

足踏みミシンみたいな原始的な装置で歯医者のドリルを回して村長の虫歯を治療するあたりは野趣のあるユーモアがあってよかったが。
(☆☆☆)



「ドリームガールズ」

2007年03月18日 | 映画
ショー・ビジネスの内幕もの、という興味でまず引き込んでいって、ルックスはいいが平凡な歌手(だからミキシングがその時々に受けるように仕立てられる)ビヨンセと、歌唱力があるがルックスに欠けるジェニファー・ハドソンとの葛藤に、「才能」と「その時のニーズ」とが一致する難しさという普遍的なテーマが現れてくるあたり、オリジナルの舞台の演出家マイケル・ベネットの「コーラスライン」とも共通しているみたい。
割りを食う役のジェニファー・ハドソンがアカデミー賞で「助演」女優賞というのも、皮肉な話。

タレントのパフォーマンスやそれをショー・アップする手際がいいのはアメリカ産ではむしろ当然で、それ以上に普通の人間社会でも通用するものを持ったドラマとしてしっかりできている。

リハーサルかと思わせてすっとワンカットで本番のステージにつながったりして、ステージの上と裏を往復する手際は編集・音楽処理ともどもお見事。エンド・タイトルで美術や衣装デザインなどの名前のバックに準備用のスケッチが使われているのも楽屋裏を見せる趣向のうち。
スタッフワークが素晴らしいので、内幕を見せる効果もあった。

ミュージカル、とはいっても歌手がステージ他で歌うわけだからリアリズムからあまり離れないが、中盤から普通のミュージカルと同じように普通の生活をしている人間がいきなり歌いだす、という不自然さ(と、いうか約束事)が入ってくるのにちょっと違和感。ジェニファーが普段の生活で歌いだすのは役柄からしてそれほど不自然ではないのだが、他の人物まで歌いだすのだから。

エディ・マーフィの役のモデルは誰だろうと考えるのもお楽しみだが、明らかにジャクソン・ファイブをモデルにした五人組が出てきて、一番年下の子供が歌っているのは今見ると異様。今では白くなったヒトですからね。
(☆☆☆★★★)


「キンスキー、我が最愛の敵」

2007年03月16日 | 映画
キンスキーが素で周囲に怒鳴り散らしている撮影合間のドキュメント・フィルムがときどき入るが、映画に使われたフッテージと変わりがないのがなんだか可笑しい。ちょっとでも自分から周囲の関心が離れると喚き散らしたというのだからかなわない。

「フィッツカラルド」撮影中に現地民が来て「やれと言うならあいつ(キンスキー)を殺すけど、どうする」とマジで言ったというのだから凄い話だし、その現地人の怒りを映画にとりこんだ演出にも感心するやら呆れるやら。

狂気、というのはキンスキーとヘルツォークの共通のキーワードみたいだが、自己演出の匂いもする。

ヘルツォークの新作はなんでもRescue Dawnというクリスチャン・ベール主演のベトナム戦争で撃墜されたアメリカ兵のサバイバル・ドラマらしいのだが、Quicktimeで見た予告編で見た限りではベトナムを「ランボー・怒りの脱出」まがいの「野蛮」な世界として描いているようでイヤな感じ。大丈夫かいな。
まあ、「アギーレ」にせよ「フィッツカラルド」にせよ、差別的といえば差別的に決まっているし「小人の饗宴」なんかもっとそうだ。

キンスキーをなくしたヘルツォークには、三船をなくした黒澤とかニーノ・ロータをなくしたフェリーニのような印象を受ける。


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「インサイド・ディープ・スロート」

2007年03月15日 | 映画
なんともいえず、荒涼とした気分が残る。
ポルノ業界が出演者を搾取し、良識派がポルノ業界を糾弾することで政治的に利用し、言論人がまた議論してメシの種にする、といった金儲けと利用主義の連鎖ばかりが目立ち、ポルノを扱っていても色気も何もあったものではない。「ポルノはセックスではなく金儲けになった」と発言が説得力を持つ。
かつてはポルノ解禁が自由のバロメーターのような雰囲気があったのだが、今では金儲けのネタ以外の意味はないのも、なんだかつまらない。

主演のリンダ・ラブレイスがフェミニズムに乗っかって「ディープ・スロート」を非難する発言をしていたことは知っていたが、それにも飽きられて「子供と孫と一緒なのが幸せ」とすっかり老けた顔で言って、まもなく亡くなってしまう。やりきれないこと、おびただしい。

ハリー・リームズがなぜか日本で「生贄の女たち」というセミ・ポルノ(つまり売り物の巨根を見せられないのに)に出ていたことには触れられていない。いい記憶のわけはないが。

それにしても日本だとピンク映画業界出身で一般映画を作って成功している人は珍しくないが、アメリカだと宗教的禁欲主義が強いせいか垣根はおそろしく高い感じがする。



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