1,502席の東京国際フォーラムホールCが満席。一般客の中には小学校低学年の子供連れまでいて、関心の高さをうかがわせる。
詳しい内容については主催者のひとつである読売新聞などにまとまって発表されるはずで、断片的な報告を落穂拾い式に書いてみる。
※ 再生医療代表理事・会長が富士フイルムの医薬品事業部長であること。業態としてフィルムの製造から離れたことは知っていたが、こう完全に方向転換して社名を変えないでいるというのも妙な感じ。
他にも実に多くの企業が参加しているのがスライドで示される。もっと増えるのは確実だろう。
※ 初期のiPS細胞が癌化した実例のスライドを堂々と出したこと。癌が発生したマウスとしていないマウスの解剖写真を並べて大スクリーンに映写されたのにはちょっとたじろいだ。逆に癌化を現在では克服している証明でもあるわけだろう。
※ 再生医療といえば当然iPS細胞をはじめとする万能細胞が最大のトピックなわけだが、実はiPS細胞を経ないで直接生物の体内の細胞に遺伝子を送り込んで別の性格の細胞に変容させる方法が現在試みられている。
iPS細胞は皮膚や血液から採取した細胞に四種類(のち六種類になる)の遺伝子を働かせることで初期化するわけだが、このアイデアを応用して、というべきか、心筋梗塞で心筋が壊死した患者の心臓にある繊維芽細胞(心臓の結合組織を形作る細胞)にまた別の六種類の組み合わせの遺伝子を送り込むことで、壊死した心筋に代わる新しい心筋を作るというもの。
iPS細胞を作ってから心筋細胞に変容させて使うのではなく、途中のプロセスを省いて直接変えてしまうわけ。そんなことができるのかと思うが、実際に心筋に近い細胞が出来て拍動していることが確認されている。
※ 培養された心筋の細胞シートがシャーレの上で拍動する映像を見せられる。四角であろうがハート型であろうが、自由に作られた形のシートが収縮しているのは、かなりのインパクト。これを重ねて立体的にしたものを壊死した心筋の代わりに移植する方法の研究も平行して進められている。
※ 理研の高橋政代網膜再生医療研究開発プロジェクトリーダーによる加齢黄斑変性をきたした網膜にiPS細胞由来の網膜移植に成功したことがマスコミに大きく取り上げられたが、移植にいたるまでの限られた時間の間に癌化などのリスクを排除するためにスーパーコンピューターを使ったスクリーニングを行っていること、ES細胞由来の網膜であらかじめシュミレーションをしていたこと、などの複合的な技術・経験の上に成り立っているので、それらの地道な積み重ねを無視して今すぐにもなんでもできそうな夢の医療とはやし立てることには釘をさしている。
※ どうしても日本にいると再生医療はiPS細胞中心に考えてしまうが、実は世界の再生医療研究で論文数でいうと三分の二はES細胞関連であって、iPS細胞関連は一割に満たない。ただし伸び率は年に77%と飛びぬけて高い。
※ すり減った軟骨を再生する細胞を注入するのに、ただ注射しただけでは散ってしまうのでMRIによる磁気で患部に誘導するというアイデア(細かいところは失念)が実現に向かっている。
※ 今のところ献血でまかなっている赤血球・血小板などは、高齢化とともに確保しきれなくなってくるのは確実で、iPS細胞由来で培養したものが使われるようになるだろう。
※ もともと免疫反応が少ないタイプの人というのが存在しているので、そういう人を100人くらい揃えたらそこから作ったiPS細胞のストックで日本人の90%はカバーできる。ただし、そういう人を見つけるには数十万人単位の調査が必要。おそらく日赤に蓄積している献血データと連携して探査されるだろう。
※ 日本は国をあげて再生医療をイノベーションの柱に位置づけると宣言しているわけだが、この点に関しては正直かなり抽象的な印象。まあ、ITだって成功したのはほんの一つまみだが。
※ 意外なようだが、学者の方が企業人や政治家よりプレゼンが巧い。話す内容がしっかり固まっているからだろうか。
タイトル
法律改正により本格化する再生医療実用化に向けた取り組み「再生医療で患者を救う」
日時
2014年9月28日(日)13:00~16:40
会場
東京国際フォーラムHall C(〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-5-1)
https://www.t-i-forum.co.jp/general/access/
https://www.t-i-forum.co.jp/user/facilities/c/
参加費 無料
主催 一般社団法人日本再生医療学会
共催 一般社団法人再生医療イノベーションフォーラム・株式会社読売新聞東京本社
後援 内閣府・文部科学省・厚生労働省・経済産業省
プログラム
13:00~13:15 開会の辞
「日本再生医療学会の社会への発信」
岡野光夫(日本再生医療学会理事長・東京女子医科大学特任教授)
13:15~13:30 祝辞
13:30~14:00 基調講演
司会:坪田一男(慶應義塾大学医学部眼科学教室教授)
「iPS細胞がつくるあたらしい医学」
山中伸弥(京都大学iPS細胞研究所所長)
14:00~14:30 講演1:基礎研究から製品化へ
司会:梅澤明弘(国立成育医療研究センター再生医療センター生殖・細胞医療研究部副所長)
「再生医療の実現を目指して ~現状分析と課題~」
ルディービーヌ・アラニャ(エルゼビア・グローバルアカデミックリレーションズ)
「心筋直接誘導による心臓再生」
家田真樹(慶應義塾大学医学部臨床分子循環器病学講座・循環器内科特任講師)
「培養軟骨移植術-保険収載への道程-」
越智光夫(広島大学大学院整形外科学教授)
14:30~14:45 休憩
14:45~15:50 講演2:体性幹細胞とiPS細胞の臨床最前線
司会:西田幸二(大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)主任教授)
「臓器創製に向けた研究開発の最前線と未来」
清水達也(東京女子医科大学先端生命医科学研究所教授)
「iPS細胞を用いた網膜細胞治療」
橋政代(理化学研究所発生・再生科学総合研究センター網膜再生医療研究開発プロジェクトリーダー)
「心筋再生医療の現状と展望」
澤 芳樹(大阪大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管外科学教授)
15:50~16:20 講演3:産業化に向けた取り組み
司会:鈴木邦彦(再生医療イノベーションフォーラム理事・副会長)
「再生医療産業化の課題」
戸田雄三(再生医療イノベーションフォーラム代表理事・会長)
「iPS細胞の産業化」
村山昇作(再生医療イノベーションフォーラム理事・iPS等再生医療関連産業育成パネル座長)
16:20~16:40 エピローグ:これからの再生医療
「ここまできた再生医療-患者さんからのビデオレター-」
戸 毅(東京大学大学院医学系研究科外科学専攻口腔外科学分野教授)
一般社団法人 日本再生医療学界
本ホームページ