場内の数十人の客で、男は私ひとり。「モーリス」以来のこと。
映画の中は、これが逆にヒロイン以外ほとんど全部男。激しいヴァイオレンス描写や、主人公が徹底してヒロインにストイックに接するところなど、内容的には(昔の)男性映画的。女だけに占領させておくのは、もったいない。
イ・ビョンホンの二枚目ぶりもだが、脇の連中のマスクもみんな見応えがある。
英語題はbitter sweet life。主人公がオープニングでチョコレートケーキを食べていて、一仕事の後はエスプレッソに角砂糖を落として飲むといったあたり、ストイックな中の甘さを見せる。
主人公が珍しくビール(苦味の強いギネス、というあたり細かいところにこだわった演出)を飲んで、部屋でひとり明かりを点滅させているところで心の動揺を見せつつ、一転してアクションに入る呼吸の鮮やかさ。
クライマックスのラウンジの名前がla dolce vitaで、フェリーニの「甘い生活」の原題。もっともこの表現自体、イタリア語でのニュアンスはむしろ“苦い生活”らしい。
火のついた角材でぶん殴り、突き出た釘が脚に刺さるなど、痛みをありありと感じさせるアクション・シーン。その一方で、イ・ビョンホンがさんざん痛めつけられても反撃に転じるとやたら颯爽としているのは映画の嘘とはいえ、ちょっと苦笑したくなる。
ロシア人二人組が出てくるシーンだけ、漫才のやりとりみたい。
(☆☆☆★★)
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