「ロード・オブ・ザ・リング」のゴラムやピーター・ジャクソン版「キング・コング」のコングなどのモーション・キャプチャー演技の第一人者アンディ・サーキスが演じているが、普通のチンパンジーと見分けがつかないところから、はっきり人間的な知性を感じる顔つきや物腰になるまで演じた振り幅は見もの。
サルをいったん完全に人間とは別の生き物として描くところから始められたので、それにより人間にしかできないと思われた領域にサルが踏み込んでくる瞬間を描けた。ショッキングでもあり一瞬こっけいとも思えたが、吹き替えだとここ、どう処理したのだろう。
日本はサル学発祥の地でもあるわけだが、モンキー博士として知られるサル学の世界的権威で元京都大学霊長類研究所所長の河合雅雄氏は戦争で人間の暴力性・残虐さを見て、人間とは何かを考える上でサルの研究を志したという。
ここでも暴力的なのは人間の方だし、サルたちは知能が高まるにつれて暴力革命に訴えるようになるわけで、「2001年宇宙の旅」がサルから人間への「進化」を武器を使った殺しに象徴させたのを思わせる。
余談だが、日本でサル学が発達したのはキリスト教文化圏ではないのでが進化論が抵抗なく受け入れられたせいだと思っていたが、河合氏によると先進国でサルが棲んでいるのは日本だけだったからだそうです。そういえばそうだ。
アフリカでチンパンジーたちが狩られるシーン、狩るのは黒人たちというのは現地人だから当然だが、言い方悪いが奴隷狩りで狩られる側だったのが狩る側にまわっているようにちょっと見える。主人公の拝金主義の上司を黒人にしたのも関係の逆転と思え、もともとこのシリーズが人間とサルとの関係を逆転させた衝撃から始まっているのをきちんと踏まえている。
原作者のピエール・ブールが猿と人間の逆転を第二次大戦の日本軍の捕虜だった経験(「戦場にかける橋」)を投影しているというのは、まあ有名な話。
シーザーが木を登るシーンが繰り返されるのが印象的だが、ここでの木は生物の進化を模式化した系統樹とも思え、進化の頂点に立つのが人間ではなくサルというあたりも、関係の逆転といえる。
脳の神経を修復するウィルスが先に人間(アルツハイマーを患っている主人公の父親)に使われ劇的な効果をあげるが、また再発してむしろもっと悪くなるのが、同じウィルスを使われたチンパンジーの運命を予測させるあたり、ダニエル・キイスの「アルジャーノンに花束を」のモルモットと主人公チャーリーの関係を逆転させたものと思われる。
同じウィルスがサルには無害で知能を高めるのに、人間には致命的なものになるというのはエイズウィルスやエボラ出血熱が元はサルの体内にいたのが森を開発したため人間と接触して猛毒になったという説を踏まえてだろう。さまざまな知見を巧みにに織り込んで、続きを期待させるあたり、ストーリーがよくできている。
「猿ではなく、チンパンジーだ」という台詞がある(戸田奈津子訳)が、英語だとmonkeyではなくapeだとなる。
apeに入るのはチンパンジーとオランウータンとゴリラで(あとテナガザルの一種)、今の分類だと人間と同じヒト科で属が違うだけということになるらしい。
(☆☆☆★★★)
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