prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

2009年10月に読んだ本

2009年10月31日 | 
prisoner's books2009年10月アイテム数:22
ニッポン不公正社会 (平凡社新書)斎藤 貴男,林 信吾10月01日
イスラエル (岩波新書)臼杵 陽10月01日{book['rank']
大麻入門 (幻冬舎新書)長吉 秀夫10月01日{book['rank']
名画を見る眼 (岩波新書)高階 秀爾10月28日
知識人とは何か (平凡社ライブラリー)エドワード・W. サイード10月29日{book['rank']
シンプル・プラン (扶桑社ミステリー)スコット・B. スミス10月30日{book['rank']
powered by ブクログ

「イーグル・アイ」

2009年10月31日 | 映画
タイトルになっている「イーグル・アイ」というのが人の声と赤い丸い光の組み合わせ、というあたり、明らかに「2001年宇宙の旅」のHAL9000を思わせる。読唇術が使えるというあたりも、HALと同じ。

HALはディスカバリー号の内部のすべての情報を管理して安全を司っていたわけだが、そのうちシステム全体の安全を乗組員の安全より優先させて「暴走」する。イーグル・アイは似たようなシステム化が一般社会全体に及んだ状態ということになるだろう。
そしてシステム自体の自己保全の機能が粛々として人間個人をコマとして扱い利用するあたりも似たロジックの産物ということになる。

爆弾の音波を使った起爆装置を、国会での国歌吹奏に合わせて起動させようという趣向は、ヒッチコックの「知りすぎていた男」。
音楽でいうなら他の人のテーマを変奏曲として作り直すような創作。

双子だって生態認証は別のはずで、あのあたりはまことに雑。
(☆☆☆★)



「1408号室」

2009年10月30日 | 映画
ほとんど全編、ジョン・キューザックの一人芝居。
それでもたせるためにいろいろ仕掛けに手を尽くしているのだけれど、尽くしすぎて笑いに接近するところあり。冷蔵庫を開けると、向こうにサミュエル・L・ジャクソンがいるとか。
部屋が生き物として襲ってくるというより、小型遊園地みたいになっている感じ。
DVDとブルーレイの両方を兼ねたディスク。
(☆☆☆)



「女相続人」

2009年10月29日 | 映画

娘のお産の時に愛妻が死んだため、妻の美しさや才能を成長した娘に求めて見つけられないでいる父親像が怖い。
存在しないがためにかなり亡妻を美化しているのかもしれず、おそらくあるだろう娘の美点をことごとく無視してしまっている。自己肯定感を持てず引っ込み思案のまま成長した娘に言い寄ってくる男は、だから金目当てとしか思わない。
(余談ながら、日本の子供というのは諸国の内で一番自己肯定感が弱い。この人間としての基本的な自信がないと、他人と関わりをもてない)。

父親が初めのうち口には出さないでいるが娘に対しておまえは何一ついいところがないと本気で思っているのが、モンゴメリー・クリフトの高等遊民的求婚者の登場とともに露わになってくる展開と、上流階級のとりすました態度から、娘の幸せを「望まない」父親の酷薄さをのぞかせてくるラルフ・リチャードソンの演技は圧巻。

もちろんこれで二度目のオスカーを受賞したオリヴィア・デ・ハヴィランド(1916年 東京生まれ 存命中)の前半のおどおどした感じから、父親がまったく自分を愛していないのを知って心を鎧っていく変化を見せる演技も鬼気迫る。

成り行きのように駆け落ちを言い出すヒロインに、結婚したらいずれきっと父上も許してくれると常識的なことを言うクリフトが、「父が許しても、私は許さない」と言われて、一瞬怯えが走るところがすごい。この後、クリフトは駆け落ち用の馬車を探してくるといって、結局そのまま帰ってこない。後で言い訳のような理屈を並べるが、怖くなったというのが本当ではないか。

ウィリアム・ワイラーは、このほとんどベルイマン作品なみの酷烈な内容を、装置の構造を巧みに生かした演出で綴る。
たとえば、ヒロインの三階にある居室(このこと自体、引っ込み思案を形にしている)が二階とつながる階段は、一階と二階の間の踊り場をつなぐ階段のほぼ延長上にある。
だからクリフトがやってこないのを知ったヒロインが一階から二階に上ってくるのを踊り場までは正面から捉え、それから背を向けて二階に行くだけで終わらず、さらに念を押すように三階へと懊悩を背負いながら上っていくのを捉えたワンカットは、すでに歴史的名演出として名高い。

さらに大きな扉や鏡の反射などにも、芝居の醍醐味とそれを映像に分割する演出手腕を全編にわたってみなぎらせている。まことに映画演出の教科書(事実アメリカの大学の教材にもよく取り上げられるという)。
(☆☆☆☆)


「ヘルボーイ ゴールデン・アーミー」

2009年10月28日 | 映画
ニューヨークの街で暴れた植物の巨人の死んだ身体からみるみる草木が生え綿毛が飛ぶシーンで、「もののけ姫」のデイダラボッチみたいだと思っていたら、後半、明らかに宮崎駿作品を思わせるシーンが続く。
世界を滅ぼしかねないので封印されたゴールデン・アーミーは「風の谷のナウシカ」の巨神兵だし、クライマックスの巨大な歯車の上の立ち回りはもろに「ルパン三世 カリオストロの城」(だいたい、ここで歯車出てくる必要はない)。

宮崎駿と共通するのはもうひとつ、自己犠牲もいとわない強い女性に対するフェミニズムで、これは真似ではなくギレルモ・デル・トロ監督の旧作「パンズ・ラビリンス」からしても、作者の本質から来ていると思う。

それにしても、出てくるクリーチャーたちのデザインの多彩で独創的なこと、あきれるばかり。見かけで怪物扱いされるヒーローの悲哀は、わざわざ「フランケンシュタイン」の実物を引用してくれてます。

ラブストーリーとしては、バリー・マニロウのCan't Smile Without Youを皮肉と見せて堂々と使っているのが目を引く。
(☆☆☆★★★)


「BALLAD 名もなき恋のうた」

2009年10月27日 | 映画
主人公の子供が原作の「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」と違うのは当然として、ちょっと「日本映画の子供」らしい言動しすぎ。つまり妙にひたむきすぎて押し付けがましい。

草剛の戦国武将ぶりが案外サマになっていて、たしか、馬の進行方向に向かって右側から馬の乗り降りをしていたが、これが正しい。それから走る時も手を握ってあまり振らないで走る。
現代から持っていったビールを飲んで喜ぶのが、この映画を撮っている時には計算していなかっだろうが、結果として楽屋オチになっていて可笑しい。

合戦スペクタクルはよくできていて、アニメ版だけでなく色々な合戦ものを大いに勉強している感じ。CG技術だけでなく、群集の組み立て方動かし方もよく計算している。
(☆☆☆)


本ホームページ


BALLAD 名もなき恋のうた - goo 映画

「佐々木芳野さんを送る会」

2009年10月26日 | 映画
「Shall we ダンス?」「ウォーターボーイズ」「スウィングガールス」「船を降りれば彼女の島」などをプロデュースし、51歳の若さで卵巣ガンで亡くなったアルタミラ・ピクチャーズのプロデューサー「佐々木芳野さんを送る会」に行ってくる。

故人の言葉として「ガンというのは良い病気だ」なぜかというと「死ぬまでに準備が十分できるから」というのが紹介される。そして事実、自分で送る会の式次第も計画し、自分が入る棺の種類も決めていた。ちなみにエコな紙製の棺だったそうで、よくそんなのあるの知ってましたねと葬儀屋が驚いたという。
そしてにぎやかに送ってほしいと望んだそうで、「Shall we ダンス?」の撮影中に生まれたばかりの娘さんをスタッフルームに置いて仕事していたのだが、その娘さん(母親そっくり)が今中学生になって母親と一緒に習っていたというピアノを弾く。
その上、映画の音楽を担当してきた周防義和、ミッキー吉野、さらに「目を閉じて抱いて」に主演した高橋一也までが歌うというにぎやかさ。

田中麗奈ほかの「がんばっていきまっしょい」メンバー、妻夫木聡、玉木宏ほかの「ウォーターボーイズ」メンバーの同窓会的居並びよう、ほか故人の遺徳を偲ばせて驚くほど大勢の出席者が東宝撮影所のレストランルームを文字通り埋め尽くした。すぐ斜め前に役所広司がいるなんて状況、想像してなかったぞ。

故人の意思に従って、湿っぽいことを並べるのはよそう。
芳野さん、お世話になりました。さようなら。

なお、この会は写真、速記その他の記録がとられていたので、アルタミラ・ピクチャーズ公式ホームページで紹介されるかもしれません。


本ホームページ







「エスター」

2009年10月24日 | 映画
「悪い種子」あたりに連なる「恐るべき子供」パターンのひとつなのだが、大きな新機軸があって、これで映画化が決まったのではないかと想像する。しかしいろいろ考えるものです。

オープニングの流産のシーンから相当にどぎつい作りで、もともと気持ちのいい見世物になるわけがないので、思い切りよく悪趣味な場面がばんばん続きます。その割りに組み立ては論理的で、子供の描く絵の使い方などもよく工夫されている。

引き取られた子供の素性を隠すのに、ロシア出身にしたという設定がうまい。どこか不気味なムードも出るし。
芸術家夫婦らしく、Macユーザーという設定。しかし、アメリカの病院では携帯禁止ではないのだろうか(あれ、本当は意味ないのだけれど)。
(☆☆☆★)


本ホームページ


エスター - goo 映画




「昭和シネマ館―黄金期スクリーンの光芒」

2009年10月23日 | 映画
よくある回顧的な映画本ではなく、今の目で見た映画全盛期の時代的な背景とそれぞれの映画の受容のあり方の関係を分析してみせているところが、この著者らしい。小津作品の家族の崩壊の仕方や、「シェーン」の原作とその元になった事件(「天国の門」の題材になったジョンソン郡戦争)との関わりなど、読み応えあり。

「カラオケ秘史―創意工夫の世界革命」

2009年10月22日 | 

「小津ごのみ」中野翠

2009年10月21日 | 
特に小津作品の着物の柄と背景との調和の分析が見事。あれだけ徹底して同じ柄でほとんどの作品を通しているのに、それを指摘する人間がいなかったのは不思議に思える。
やたら性的な側面から小津作品を解釈する見方に対する異議申し立てにも同意したくなる。
どちらも男性原理からは出てこない見解だろう。

「名画座番外地―「新宿昭和館」傷だらけの盛衰記」川原 テツ

2009年10月20日 | 
昭和館には何度も行って、火のついたタバコをポイ捨てしたおっさんと掃除のじいさんとがつかみあい寸前の言い争いをしているのを実見しているが、著者によるとそれどころではなく二階で火を焚いた奴がいたというからすさまじい。その現場を裏方として支えた著者の、あまり戻りたくないが懐かしくはある回想録。現在は浅草の映画館に勤めているらしい。

「ピアニストになりたい! 19世紀 もうひとつの音楽史」 岡田 暁生

2009年10月16日 | 
ピアノの練習法が、工業製品が分業と反復によって大量生産される19世紀的な傾向に見合ったかたちで、分類・反復に収斂されていくプロセスを豊富な図版とともに解き明かす。19世紀はピアノがブルジョワのステータス・シンボルになった時代でもあって、ベッドと食器棚と一体になったピアノなどというものが売られていたというのには笑ってしまう。