オリジナルのダン・オバノン&ロナルド・シャセットのシナリオでは古式ゆかしいSF風に火星が植民地になっていたのだが、これを人間がほとんど住めなくなった地球上で辛うじて残ったブリテン島が支配者の住む場所、オーストラリアが搾取される労働者の住む場所という具合に振り分け、両者が地球をぶち抜いたエレベーター(fallと呼ばれる)で結ばれているという設定になっている。
もともとオーストラリアはイギリスから送られてくる囚人の流刑地だったのだから、うまくあてはめたと思う。
格差の上下を場所の上下に置き換え、しかもエレベーターが地球の中心付近を通るあたりで上下が逆転するというのが、支配者と被支配者との逆転の寓意になっていると考えていいだろう。
アクション・シーンでもこれくらい飛び降りたり飛び上がったりする上下運動にこだわった映画もあまりない。
シュワルツェネッガーが主演しているとおよそフツーの人に見えなかったが、コリン・ファレルだと労働者に見えます。
今の格差拡大社会に対応しているというより、「1984」的な、つまり社会主義的なディストピア像に近い気がする。
彼の大もとの正体をシャワルツェネッガー版では映像で見せていたが、ここではセリフだけで済ませている。それだけストーリー的にはわかりにくくなった気もするが、「本当の自分」は過去の記憶を遡って探り当てるものではなく今現在の自分で選び取れる姿がすなわち本当の自分なのだといったテーマが出ている。
実際、人間の「記憶」というのは常に現在に蘇ってくるものとしてあるのであって、コンピューターとは違って脳の中に固定的にメモライズされているものではないのがわかってきている。
SF的なガジェットは総とっかえの観で、過去のSF映画のあれこれが盛大に引用される。
雨がびしょびしょ降る看板に漢字やロシア文字やカタカナ、ハングルが混ざる下町の光景は明らかに「ブレードランナー」、ロボットたちは「アイ・ロボット」、エアカーがびゅんびゅん飛び交うロンドンの道路は「フィフス・エレメント」、立方体が上下前後左右にいきかうエレベーター(?)は「CUBE」といった具合。
前作に出てきたおっぱいが三つある女とかカツラくさい大女とかもアレンジされてしっかり出てきます。
考えてみると、前作は製作費かかっているわりに妙に画面が安いところありましたね。バーホーベンではないから、エグい描写は抑え気味。
監督の嫁さんのケイト・ベッキンセールが「アンダーワールド」シリーズそのまんまの身体の線がぴっちりわかる衣装と歯を剥き出した表情で大暴れ、前作のシャロン・ストーンとマイケル・アイアンサイドを足した役でぐいぐい迫ります。S女好きにはたまらないのではないかなあ。
味方のジェシカ・ビールもダーク・ヘアなので、どっちかわからなく時がある。善玉は金髪にするといったルーティンやった方がよくなかったか。
リコール社は「リコール」とカタカナでも「想起」と漢字でも表記されるけれど、英語でRekallと出る。これ自体、現実のようだけれど現実とはずれた世界を暗示していると考えていいだろう。
(☆☆☆★)
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