prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「Dr.パルナサスの鏡」

2010年01月31日 | 映画
ヒース・レジャーが撮影中に亡くなったので、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの三人が代役をかって出て完成したという世にも変則的な作りだが、もともとイメージが鏡の中で乱反射して増殖していくような構造なので気にならない、どころか奇想感が強まった。さすがに最初の方で別のキャラクターが鏡に入って別人になるシーンを入れて後に備えているが、鏡に入ったご婦人方は変身しないのだね。

ただ、誰が演じても困らないということは、レジャーの役がどういう奴なのかもともと曖昧ということにもなるのではないか。

イメージの奔放さはテリー・ギリアムならではあるのだけれど、「ブラジル」の頃と違ってCGでなんでもできるようになると驚き感は薄くなります。

主役はパルナサス博士ことクリストファー・プラマー(御年80歳)の方で、IMDBによると、カナダ出身のせいか、イギリスの評価が高いせいか、ニューヨークの舞台が活動の中心のせいか、アカデミー賞をとったことがない第二次大戦後の最も優れた俳優ということになる。
アルコール依存の時期があったのが、三度目の結婚で立ち直ったという。
(☆☆☆★)


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「今度は愛妻家」

2010年01月30日 | 映画
ネタをばらした後かなり長い時間をもたせる脚本の技術に感心する。大ネタをばらしたあと、もうひとつ小ネタを明かす二段構えもあるし、アイデアの一発勝負ではなくて、前半笑わせたところが全部後半逆転して生きてくるドラマの組み立てがしっかりしているせいもある。
人物をいっぺんに描かないで順々にわからせていくのが舞台劇原作らしい。

ネタをばらす瞬間は映画でないと描けないやり方なのだが、原作ではどうしていたのだろうか。
人物の出入りがネタとも結びついているのだが、映画だと舞台ほど出入りがはっきりしない。

出演者、それぞれ好演。豊川悦司が薬師丸ひろ子がより頭ひとつ以上背が高いのに、ぜんぜん頭があがらないのが可笑しい。
舞台を雑司が谷の鬼子母神にしたのが、雰囲気作りと内容に結びついている。
(☆☆☆★★)


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2010年1月に読んだ本

2010年01月30日 | 
prisoner's books
2010年01月
アイテム数:34
SとM (幻冬舎新書)
鹿島 茂
01月15日{book[' rank' ]
映画はやくざなり
笠原 和夫
01月17日{book[' rank' ]
破滅の美学 (ちくま文庫)
笠原 和夫
01月17日{book[' rank' ]
在日
姜 尚中
01月17日{book[' rank' ]
菜の花の沖 1
司馬 遼太郎
01月22日{book[' rank' ]
菜の花の沖〈2〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
01月22日{book[' rank' ]
菜の花の沖〈3〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
01月22日{book[' rank' ]
菜の花の沖〈4〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
01月22日{book[' rank' ]
菜の花の沖〈5〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
01月22日{book[' rank' ]
愚か者の哲学
竹田 青嗣
01月22日{book[' rank' ]
よみがえれ、哲学 (NHKブックス)
竹田 青嗣,西研
01月22日{book[' rank' ]
天皇の戦争責任
加藤 典洋,竹田 青嗣,橋爪 大三郎
01月22日{book[' rank' ]
哲学の味わい方
竹田 青嗣,西 研
01月22日{book[' rank' ]
はじめての現象学
竹田 青嗣
01月22日{book[' rank' ]
殉死 (文春文庫)
司馬 遼太郎
01月22日{book[' rank' ]
素人の乱
河出書房新社
01月26日{book[' rank' ]
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「エクトプラズム 怨霊の棲む家」

2010年01月29日 | 映画
原題は「コネチカットの幽霊」で、エクトプラズムは本当にちらっと出てくるだけ。だけれど、その出てくる交霊会がどういう性格のものなのか、なんで死んだ家族の写真ばかりとっておいたのか、ラストにぞろぞろ出てくるあれは何なのか、「耳なし芳一」みたいに全身に文字が刻まれる意味は何だったのかといったストーリー上のつながりがよくわからないで困る。
実話(?!)だからわからなくていいということはないので、実話だからこそもっともらしいバックストーリーが欲しくなる。

怖そうな家の雰囲気作りにはまあ成功しているけれど、脅かし方が単発的でつながらないところが多い。
一番怖い場所になる地下室と、そこにつながる謎の部屋のデザインはよくできている。

呪いの家に移り住んだ一家の長男が若いのにガンに侵されていて闘病中で、ゴーストの中にいるどうやら非業の死をとげた同い歳くらいの少年と気持ちの上でシンクロしていくという趣向は面白い。

父親がアルコール依存症という設定はあまり生きていない。

シャワールームでシャワーカーテンが突然巻きついてきて窒息しそうになった後、わざわざ残されたカーテンリングのアップを見せるのは「サイコ」、少年が斧を振り回してドアをぶち壊すのは「シャイニング」ですね。

映画始まる前から女子高生らしき集団が十人ばかりまとまってきゃあきゃあ騒いでいたのでどうなることかとぞっとしたが、始まったら案外おとなしく見ていてほっとする。
(☆☆☆)


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「Dear Zachary ディア・ザカリー」

2010年01月28日 | 映画


初めは早く父親をなくしたまだ赤ちゃんのザカリーくんに大きくなったら父親のことがわかるようにと、父の親友だった監督がごくプライベートに撮りだしたビデオだったのだが、残された母親がとんでもない行動に走ったことで、題名が皮肉な意味を持つまでにショッキングな展開を見せてしまって一般公開され、政治家たちが見に来て法を変えることにまでむすびついたという。

特にザカリーの祖父母は苛酷という言葉でも甘いくらいの目に会うわけで、見ていられないくらい。
なんでああいう明らかにイカれた奴を野放しにしたんだ、と法曹関係者の責任はどうなるのか、追求しなくていいのかと疑問が出てくる。

「キャピタリズム~マネーは踊る~」

2010年01月27日 | 映画
マイケル・ムーアらしい相変わらずアジテーション的な作りで、いいかげん慣れてきたせいかバイアスの強さにはいささかへきえきする。
今のアメリカの生産業の崩れ方を、GMの工員だった父親(鶴のようにやせているけれど、似ている)が振り返る表情などは重いものがあるけれど。

今となっては、資本主義をアメリカ一国だけで考えるにはムリがあって、アメリカ憲法の精神やキリスト教精神にたちかえるというのでは解決がつかないのは確か。
それからあるべき社会の一種のモデルケースを日本(!)やヨーロッパに求めるというのも、困る。日本が敗戦で新しいよき理念を移植されたというのだけれど、そこに昭和天皇の姿を出すというのはすごく変な感じ。
ルーズベルトの演説でしめくくりというのも、言っている理念は立派ですけど、そんなに持ち上げる相手ですかと思わせる。

なぜサブプライムローンが始まったかとか、金融工学って何だとかいった解説だったら、NHKドキュメントの方がわかりやすかった。
(☆☆☆)


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「こねこ」

2010年01月26日 | 映画

ロシアにも動物癒し映画はあるのですね。
基本的な作り方、メンタリティは元西側のとまったく同じ。動物好きに国境なしという感じ。

出演もしている世界でも珍しい猫トレーナー・アンドレイ・クズネツォフの訓練のたまものらしいが、画面で見ていると芸達者ではあっても悪達者ではないネコたちが勝手にふるまっているのを撮っているみたいにしか見えない。勝手でないとネコらしくないものね。

特に動物好きではない人間が見てもまあ楽しめるが、基本的にはネコ好きのための映画。


「板尾創路の脱獄王」

2010年01月25日 | 映画
時代設定や執拗な脱獄の繰り返し、なぜこうも脱獄を繰り返すのかという疑問を看守長の目を通して追求する描き方など、吉村昭の「破獄」のもとになった白鳥由栄の話のバリエーションかと思ったら、途中から大胆にフィクションに飛躍して、昭和の日本に島にある刑務所なんてものをぬけぬけと持ち出してくるあたり、完全にひとつの世界を作っていた。
ラストのくくり方も人を食っている。

リアリズムを通すのは予算的にもムリという消極的な理由からというわけばかりではなく、美術などかなり象徴化・抽象化した作り。ちゃちといえばちゃちだが、「作り物」の魅力にうまく寄せている。
(☆☆☆★)


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「パブリック・エネミーズ」

2010年01月24日 | 映画
FBIのフーヴァーがしきりとマスコミを利用するのに対して、デリンジャー側が義賊的な行動をとっているのにあまり自己顕示的な真似をしない。
バイオグラフ劇場の前でデリンジャーが射殺されたあと、大衆がタイマツ焚いてお祭り騒ぎするが、実話では流れた血をハンカチに浸して持ち帰った通行人がいたという。大衆にとってはギャングはアイドル(偶像)だったわけだが、そういう神話性の表現はあまり出ていない。

殺される前に見ていたクラーク・ゲーブル主演の「男の世界」の内容が明らかにデリンジャー自身にだぶっているのは、史実とはいえ不思議なくらいできすぎ。

夜の銃撃戦の場面、なぜかデジタルカメラくささが強く出る。ダンテ・スピノッティの撮影は他ではちゃんとフィルム的質感を出しているのに。

ジョン・ミリアスの「デリンジャー」のウォーレン・オーツやベン・ジョンソンなどの男くささと比べると、全般に顔がつるんとしています。助っ人捜査官を演じるスティーヴン・ラングがこわもての国からこわもてをひろめに来たような顔で、ラストで人情味を見せるあたりはうまい。

顔面を銃弾が突きぬける弾着表現にびっくり。
(☆☆☆★)


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「かいじゅうたちのいるところ」

2010年01月23日 | 映画
こらえ性のない幼児的な感情の発散をしていた子供が、かいじゅうたちのいる島に渡るのだけれど、かいじゅうたちがまたかなり彼の分身みたいな幼児的な性格が目立つのが多いのでドラマとしてあまり成立していない。

完全にぬいぐるみ丸出しのぬいぐるみにCGで表情をつけていったらしいが、そういうアナログとデジタルの混交ぶりや音楽の使い方に才気を見せる。ただしキャラクターがわあわあ騒ぐところが多いのと、実は金かかってます式の押し付けがましさが少し神経に触る。
(☆☆☆)


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「GOEMON」

2010年01月22日 | 映画

ヴィジュアルはCGを縦横無尽に使い、時代劇にローマ史劇を混ぜたりして奇想天外、信長殺しの黒幕は秀吉でしたといった珍説を織り交ぜたりしているが、案外、センスがウェットで爽快感に乏しい。

半ばブルーレイの効果を確かめるために見たようなものだが、32型ではそれほどの違いはなし。

チェ・ホンマンとか蛭子能収の特別出演って、スケールを小さくするだけだと思うのだが、なんでこういうことやりたがるかね。
(☆☆★★★)

「インフォーマント!」

2010年01月21日 | 映画
頭良いくせに信じられないくらいいいかげんな主人公のキャラクターが面白い。植木等の無責任男もびっくり。
マット・デイモンが体重増やして絶えず悪気のない笑顔を浮かべ続けていて、ちゃんと頭よく見えるのは当人の地だね。

しきりと頭の中で考えていることがマンガの吹き出しみたいにナレーションがかかるのが、脳みそダダもれ状態の表現になっている。

FBIがこれだけ振り回される話というのも珍しい。だますつもりがなかった分、かえってひっかかったということだろう。
(☆☆☆★)


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「カールじいさんの空飛ぶ家」

2010年01月19日 | 映画
爺さんや、歯が欠けた女の子や、モンゴロイドの太めの男の子といった、リアルな世界では主役級になりにくいキャラクターをしっかり生かしている。

空からばらばら人が落ちても風船がついているかしてそのまま地面に激突しないようにしているのは配慮。

ツェッペリン型の飛行船とか、明らかにジブリアニメと趣味が通底していますね。

ちょっときついのは、「未知の世界」というのは今では成立しないこと。「土人」は出せないし、宇宙ですらフロンティアとは言えないものね。アニメではいくらも非現実の世界を描けるとはいえ、後半は絵空事の感じが強くなる。

無数の風船の色と動きは圧巻。爺さんの杖の先についたボールが後半役に立つあたり、芸が細かい。
食事をどうしているのか、よくわからないのはひっかかる。
(☆☆☆★★)


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「ジュリー&ジュリア」

2010年01月18日 | 映画
メリル・ストリープが本当にどこからどう見ても並外れた大女に見える。初めのうち、新しいフランスの屋敷に来たあたりではごく小柄な管理人の女性と絡ませることで大きく見せたのかと思ったら、とてもその程度ではない。
演技だけでなく、どれくらいCG技術も入っているのか、どう見てもまったくわからない。ということはすごい技術なのではないか。
エンド・タイトルでも特にずらずらCGチームらしい名前が並ぶということはないが、内容からして名前を出さないように配慮と契約がなされたのではないかと想像する。

ジュリア役のエイミー・アダムスが、対照的に小柄ですごくキュート。

マッカーシーがのさばった冷戦時代と、ブッシュがのさばった9.11以降の時代とがパラレルに描かれている。
フランス料理ではバターが大事な調味料で、この映画の締めくくりにもバターが置かれるのだが、映画には出てこないが失脚後のマッカーシーは酒びたりになって胃壁を守るためとか言いつつバターをかじりながらウィスキーをストレートで呷って寿命を縮めたという。

料理の楽しみは味もだけれどそれを人と共にすることそのものであることが、二つの時代のそれぞれのパートナーシップに現れていて、また時代を越えて会ったこともない人間と接する方法でもあることをありありと感じさせる。

ジュリーが出版に奔走するのもジュリアがブログを書き続けるのも、コミュニケーションを求める欲求の表現としては同じこと。
(☆☆☆★★★)


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俳優座劇場プロデュースNo.82 『十二人の怒れる男たち』

2010年01月17日 | 映画
セットの汚し具合が相当に徹底している。蛍光灯など真っ黒な垢みたいなものがついていて、さらに、トイレの壁が紗で作られていて中に人が入ると照明がつき、中の様子を半透明になった壁を通して見えるようになるのだが、その壁にも漆喰のようなものが不細工に塗られているといった調子。

出てくる役者たちが、テレビで見るようなつるつるしたプラスチック製みたいなイケメンとはおよそ無縁で、皺も人生の垢もたっぷりついた中高年がずらっと十二人居並ぶとそれだけで迫力がある。陪審員制からすると男ばかり十二人というのは不自然のはずだが、この場合まず存在自体の厚みが理屈よりものを言う。

人種差別と移民排斥を大声で繰り返す十番の存在は、今になると日本でも十分すぎるほどアクチュアリティがある。

ラスト、最後まで有罪を主張した三番が自分の息子との葛藤を認めて折れたあと、最初に無罪を主張した八番ではなく、途中まで最も強力な有罪派だった四番に支えられて退場するのが「勝負に負けた」感じを薄らせた。

暑くてたまらない感じを、扇風機より全員が入れ代わり立ち代り冷水をしょっちゅう飲むことで表現している。


レジナルド・ローズ
翻訳
酒井洋子
演出
西川信廣

出演(配役順)
大滝 寛、荘司 肇、三木敏彦、立花一男
井上倫宏、岡田吉弘、高橋克明、松橋 登
小山内一雄、外山誠二、里村孝雄、松島正芳
高塚慎太郎、小林優太

・陪審員一号
8~11日 高塚慎太郎/12~17日 大滝 寛
・守衛
8~12・14・16日 小林優太/13・15・17日 高塚慎太郎


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