prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

2009年5月に読んだ本

2009年05月31日 | 
prisoner's books2009年05月アイテム数:9
素晴らしきラジオ体操高橋 秀実05月04日
ぼくの映画人生大林 宣彦05月11日
右翼と左翼 (幻冬舎新書)浅羽 通明05月11日{book['rank']
闇の鶯 (KCデラックス)諸星 大二郎05月11日{book['rank']
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「伝染歌」

2009年05月31日 | 映画
伝染歌 プレミアム・エディション [DVD]

ジェネオン エンタテインメント

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これ、ホラーじゃないぞ、というのが大方の世評で、実際その通り。同じ原田眞人監督「バウンスkoギャル」が女子高生風俗ものではなかったように。
じゃあ何かというと、冗談ではなく一種の日本人論映画なのだね。

日本人の自殺願望を、オープニングの授業で受験に出ないからとオミットされる近松門左衛門の心中ものや、ポスターやビデオで出てくる映画「切腹」といったアイテムで綴り、阿部寛のセリフとして自殺はセックスのエクスタシーを知らない奴の代用行為だと言わせる。
伝染歌を追うことになる編集部の紹介が、あからさまに「地獄の黙示録」経由の「ワルキューレの騎行」をBGMにした戦闘「ごっこ」絡みで、ご丁寧にも携帯の着メロも同じ曲。前半に出てくるAK48(この映画が売り出しに買っていたらしい)のオタクに囲まれたライブの描写も含めて、「生」の実感を持っていない人種として今の日本人が捕らえられる。

ホラーにつきものの「呪い」を生の側からの死への願望の裏返しではなく、死んだ側の「生きたい」願望としてひっくり返していて、クライマックスの歌の使い方もタナトスではなくエロス志向。ホラーとは方向がまるで違う。

リングの貞子にあたる少女を、明らかにオーソン・ウェルズの「上海から来た女」の引用である鏡の間に立たせたり、部分的な時制の繰り返し、室内を蠢く女子高生を実験設備の中のモルモットのように捉える俯瞰ショット、時間の巻き戻し効果など、映画的な実験もいろいろ試みている。
もっとも、理屈は通っていても、それらのディテールをまとめる感情面(恐怖に限らず)のアトラクションが欠けている。

少女たちが松田龍平に率いられて泊まる旅館の大広間が、「KAMIKAZE TAXI」の自己啓発セミナーに使われた旅館の大広間に似ているな、と思ったら、同じロケ地。「チェック、ダブルチェック」というセリフあるいはモットーが、「クライマーズ・ハイ」に先んじて出てくる。
(☆☆☆)


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「天使と悪魔」

2009年05月30日 | 映画
イルミナティというと、ユダヤ・フリーメイソンとセットみたいに陰謀論にしょっちゅう出てくる秘密結社なので、どんな扱いで出てくるのかとちょっとびくびくものだったのだが、宗教に弾圧された科学が暴力的にカルト化したものとして描かれていて、確かに科学の仮面をかぶったカルトって多いよなとは思わせて興味をひく(オウム真理教を忘れてはいないでしょ)。確か、「ドラえもん」に科学と宗教の立場が逆転していて、科学が迷信扱いされている世界が出てくるのがありましたね。

反物質が爆弾代わりに出てくるのがちょっとなあ、と思ったらやはりと言うべきか、東大の早野龍五教授が、「天使と悪魔」の虚と実 50 のポイントというサイトで問題点を指摘しています。

そんなこんなで、モチーフとしては面白いし、四大物質を使った見立て殺人とか、タイムリミットとの追っかけとか、ローマの名所と隠された空間を両方たっぷり見せるところとか、映画的なアレンジは割とうまくいっている。原作読んでないとわからないということはありません。

もっとも、とにかく勢いで見せてしまう感じで、いろいろと乱暴だったり厚み不足のところは多い。「今の」疑似科学とそれほど深く描いているわけではないし、先述のようにこれ自体擬似科学がかったところあり。

擬似科学っていうのは実際ずいぶん幅を利かせているので、科学そのものよりよっぽど俗耳に通っているだろう。どう考えても熱伝導で調理するフライパンを遠赤外線で調理するからありがたみがあるように宣伝していたり、ね。マイナスイオンとか、コラーゲンとか、脳がどうたらとか、科学用語じゃなくてマーケティング用語と思った方がいい。
O157が流行った時、安価な食塩水を電気分解して強力な酸を作り、これで消毒するから安心なんて記事(に見せかけた広告)が大手新聞系週刊誌に出ていて、バカ、食塩水を電気分解したら塩素と水酸化ナトリウム(強アルカリ性)が出る、塩素は毒ガスだし、水酸化ナトリウムはたんぱく質を溶かす劇薬で目に入れたら失明する危険だってあるぞとのけぞったことがある。陰謀説もだが、マスコミの罪は重い。
(☆☆☆★)


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「ヘルボーイ」

2009年05月29日 | 映画

これ見ると、アート・フィルムみたいだった同じギレリオ・デル・トロ監督の「パンズ・ラビリンス」も異様なクリーチャーを見せるのが目的だったのではないかと思わせる。
アメコミ原作って、設定がかなり複雑で理解するまで手間がかかる。

主演のロン・パールマンは「人類創生」「薔薇の名前」から、いつも異様なメイクをしているみたいな役者だけれど、いつも誰だかわかるのだね。
(☆☆☆★)


「喜劇 爬虫類」

2009年05月28日 | 映画

なんという題名かと思うが、渥美清が寅さんをやる直前の主演作。

金髪女のストリップを巡業してまわる一座の話で、ショーの司会や現地の警察と話をつける役目が渥美、用心棒役が西村晃、それから大坂志郎と森下哲夫といったメンツ。女の元マネージャーが小沢昭一、警官が伴淳三郎、ヤクザが上田吉二郎。
西村や小沢が出ていてストリップの話だから今村昌平的な世界をちょっと思わせるけれど、監督は渡辺祐介で松竹ではあそこまでアクは強くできない。とはいえ、実際に浅草のストリップ小屋の幕間のコントに出ていた渥美としてはある程度なじみの世界ではないかと思わせ、司会の口調も調子いい。
息子がいるという設定で、公害病(時代色が出てます)の治療のため一座の面々が積み立てていた金を競馬に突っ込んでしまうあたり、あまりシャレにならない。

ストリッパーはメリー・ハローといういいかげんな芸名だが、やっている人もテリー・エンジェルというどっこいどっこいのいいかげんな名前。ほかにどんな映画に出ていたのか、さっぱりわからない。これがベトナム戦争に出征中のアメリカ軍人の妻で、留守中の小遣い稼ぎをしていたというわけ。自分だけステーキや寿司を食べて、夫が戻ってきたらはいさようならと、日本人をなめきってます。
冷血動物、という意味でつけた題みたいだが、一番それにふさわしい。
(☆☆☆)


「ジーザス・キャンプ」

2009年05月27日 | 映画

キリスト教原理主義の牧師がキャンプで子供たちを洗脳する、いやでもオウム真理教を思わせる狂信集団の世にも気色悪い光景がえんえん続き、中絶に反対する正義(?!)を体現している大統領としてブッシュが等身大の立て看板で出てくるのにはのけぞった。皮肉で用意したわけもないが、薄っぺらところがまことにブッシュにふさわしい。
こういう福音派の信者が8000万人くらいいるからブッシュが再選もされたというわけ。アメリカでも都市部のインテリにはおよそ信じられない話らしく、ラジオで話しながら何度も絶句していた。

「松嶋×町山の未公開映画を見るTV」にて放映。映画でホモは地獄に堕ちるとかいって脅していた牧師が男が愛人にしていたというので失脚したと終わったあとに解説されていたけれど、自分が後ろめたい奴に限って、人がやっていると声高に非難してごまかすものらしい。

「シューテム・アップ」

2009年05月26日 | 映画

ジョン・ウーばりのアクロバティックな銃撃戦のアイデアにすべてのエネルギーを注ぎ尽くした作り。ドンパチは好きなのだけれど、そればっかというのは退屈しないがだんだん飽きてくるのは避けられない。ジョン・ウー自身は銃撃戦からいったん離れているけれど、こういうのが出てくる状態では賢明みたい。

ヒーローにニンジンをくわえさせてバッグス・バニーにたとえているわけだけれど、キャラクターに共通するものは何もない。昔の映画オタクの元祖みたいな監督のピーター・ボクダノヴィッチが「おかしなおかしな大追跡」でバーブラ・ストライサンドにやはりニンジンをくわえさせてバッグス・バニーにたとえてたけれど、オタク好みなのかな。
原田眞人監督「ガンヘッド」の高嶋政宏もバニー風にニンジン齧ってましたな。
(☆☆☆★)

「レッドクリフ PartII」

2009年05月25日 | 映画
圧倒的な戦力の差を埋めるのに必要な十万本の矢をどう確保するか、そして火責めを行うにあたって重要な風向きの変わり目までにどう時間を稼ぐかといった具合に、こうするためにはこうしなくてはいけないという具合にひとつひとつ戦略を積み重ねていくプロセスがわかりやすく、クライマックスまであまり見せ場がなくても飽きさせない。

いざ戦闘が始まったらもう圧倒的なスケールと徹底した物量で圧倒される。炎の効果など、どうやって作り出したのかメイキングが見たくなった。
香港ノワール時代のジョン・ウーのトレードマークである互いに銃をつきつけ合うポーズが剣に代えて再現されるわけだけれど、引き金を引くだけでいい銃に比べると切迫感はどうしても弱い。
三国志って、こんなに女の出番が多い話だったっけという気もする。御時世ですか。
敵役であるところの曹操がマヌケでドジに見えるのはちょっと困る。
(☆☆☆★★)


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レッドクリフ Part II -未来への最終決戦- スタンダード・エディション [DVD]

エイベックス・マーケティング

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「若親分出獄」

2009年05月24日 | 映画

市川雷蔵の晩年(といっても、享年37)のシリーズもの第二作。
ヤクザものとはいっても元海軍軍人という設定で、着流しからびしっとした純白の海軍の制服姿になるのが一つの見せ場。
切った張ったはあるが、東映製より血なまぐさくない。

悪いヤクザを脅すためにニトログリセリンの瓶を持って歩くっていうのは、危なすぎやしないか。自分の方が先に吹っ飛びそう。
悪人を叩っ切った後、満州に逃げるというのが戦前の便利なところ。
(☆☆☆)


「スラムドッグ$ミリオネア」

2009年05月23日 | 映画
けっこう堂々たるご都合主義で、よく考えてみると、このクイズショーで今まで主人公ほど高額の賞金を獲得できた出演者はいなかったというのは不思議。
最後の問題など、かなり簡単な方に属するはず。ジャマールが知らないことを出題側が知っていたとは思えないし。どうやって出場できたのか、というあたりも割と曖昧。不正に近いことがあるみたいなのだけれど、それでは警察が正しいことになってしまう。

それがインドが舞台だと、リアルな寓話として通ってしまうには違いない。監督のダニー・ボイルは「トレインスポッティング」以来の音楽と映像のノリの良さを見せる。
スラムの描写や、子供の時の少女への思慕がそのまま成長しても続いてるあたり、ちょっとディケンズの匂いもする。クラシックに登場人物の運命をつづる物語でもあるし。
(☆☆☆★★)


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若き日の黒澤明 ~幻のシナリオに隠されたクロサワ映画の原点を探る~

2009年05月22日 | 映画
黒澤が『姿三四郎』で監督デビューを果たす2年前、当時の映画界の重鎮、伊丹万作が絶賛したシナリオ『達磨寺のドイツ人』を軸に、若いときの黒澤を読み解く。

モデルであるブルーノ・タウトが実際に滞在した期間を五年ほどあとにずらして、独ソ不可侵条約が締結されて日本が「ドイツに裏切られた」と感じていた時期にしたという創作が興味深い。

原田美枝子がシナリオの一節を朗読すると、葬列の行進のリズム、タウトと村人のカットバックなど、ありありと目に見えるよう。

余談だが、タウト展で見たタウトデザインによる近代トルコの祖・ケマル・アタチュルクの葬儀のバックの幕の紋章を見て、一瞬黒澤の「乱」の一文字家の家紋と見間違えた。トルコ国旗である新月旗が三日月と星なのに対して、「乱」の一文字家の家紋が三日月と太陽で、つまり「明」という文字を図案化したものともとれる。
新月旗はオスマン・トルコ時代からのものだから偶然だろうけれど、妙な感じ。


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「アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生」

2009年05月21日 | 映画
アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生 コレクターズ・エディション [DVD]

ギャガ・コミュニケーションズ

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ずいぶんさまざまなスタイルの写真を媒体によって使い分けているものだなと思う。プロのカメラマンだからと言ってしまえばそれまでだが、一種の物語性を被写体を見つける、というか場合にょっては自分との関係から作り出していくとでもいった感じ。
スーザン・ソンタグの闘病を追った一連の写真が、「有名人もの」の枠をはみ出た印象を残す。

ローリング・ストーンをいったん離れてヴォーグに移る、というのが、あっちの感覚だとマイナーからメジャーに移ることらしいのに驚く。
映画の「マリー・アントワネット」のプロモーション用か、同じ出演者で同じベルサイユ宮殿で、まったく別のセッティングで撮っているのだから贅沢。金がかかって仕方ないと編集者がボヤくもの無理ない。


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「グラン・トリノ」

2009年05月20日 | 映画
ちょっと不思議ですらあるのは、このストーリーがもともと別にイーストウッドにあてて作られたものではないこと。イーストウッドのこれまでのキャリア、の延長戦上に置かずに考えるのは映画を見た後では不可能に思える。いったい、ストーリーの作者はどんな完成形を想定していたのだろう。

話し合いや平和主義ではどうしようもないワルをどう排除するのかというモチーフは「ダーティハリー」、「許されざる者」以降目立つようになった贖罪のテーマ、朝鮮戦争がバックにあったり、だらしのない若者を鍛えるのは「ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場」(heartbreak ridge=心臓破りの尾根という言葉自体、朝鮮戦争の山岳地帯の戦いのことを言っているとか)。

道路が草ぼうぼうで、主人公以外の家も手入れ不足。あるものをそのまま撮っているようだけれど、プロダクション・デザイン(ジェイムズ・J・ムラカミ)の仕事はかなり重要。
意外と軽く、むしろその軽い振りでスタンドまで自然に運んだみたい。

モンが木の根っこを掘り返そうとしてあきらめてしまうあたり、「ペイルライダー」さらにはその原典といえる「シェーン」も思わせ、そう考えると元から罪深い人間である自分が罪をかぶってイノセントな人間を守ろうとする行動もつながってくる。やはり一種のキリスト教的感覚なのだろう。
(☆☆☆★★★)


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グラン・トリノ [DVD]

ワーナー・ホーム・ビデオ

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「ジェイド」

2009年05月19日 | 映画

監督ウィリアム・フリードキン(「フレンチ・コネクション」「エクソシスト」)、製作ロバート・エバンス(「ゴッドファーザー」「チャイナタウン」)、脚本ジョー・エスターハス(氷の微笑)と、過去にヒット作を作った人たちが集まって、血まみれの殺人から始まり美女が絡むのは「氷の微笑」、「チャイナタウン」では出てこなかったチャイナタウンが舞台のカーアクションは「フレンチ・コネクション」、といった自己模倣のパッチワークでこしらえたみたい。

検事たちが全員アモラルなのにあきれる。こんなのに訴追されたくないなあ。
チャイナタウンの暴走では何人も轢かれているのに、よく問題にならないもの。
題名のJADEは翡翠という意味があるみたいだけれど、作中思わせぶりに出てくる毛を保存した金属容器には漢字で「玉」とある。
(☆☆★★★)


「デイ・ウォッチ」

2009年05月18日 | 映画

光と闇の戦争っていったって正義と悪の戦いではなくどっちもろくなことをしない、「用心棒」の二組のヤクザ同士の出入りみたいで、どっちが勝ってもどうでもいい感じ。三十郎は出てこないのでなかなか争いが終わらない上、誰に肩入れして見ればいいのかよくわからない。

ロシア製ファンタジーとはいってもCGの使い方は「マトリックス」以来の荒唐無稽テイストであまり独自色なし。世界が狭くなって、いろいろな国が入り乱れるようになって世界が多様化したかというと、逆にコンビニ的にアイテムが増えてもどこも似た感じになってどうもつまらない。
(☆☆★★★)