prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「中国女」

2023年02月28日 | 映画
中国国内外を問わず、失敗を通り越して大災難だったという評価が定着したといっていい文化大革命と毛沢東主義にマジメに相手している、おフランスの若者たちをいささかマンガチックな方法とはいえ見せられると、なんともいえない気分になりますね。罪作りというか、アホらしいというか。
ヨーロッパのアジアに対する一種のエキゾチズムが思想面に出てきたのではないかという気がかなりする。まあ、後知恵でモノ言うなとは自戒しないといけないのですが。

原色を多用した人工的な画作りや、引用だらけ言葉で埋め尽くす方法というのも、好意的に見れば異化効果的で、心酔しているかマジメに応対している人間は描いても、描いているゴダールの方は自問自答を繰り返している体ではある。

若者たちがフランス共産党に対してはすごく批判的。日本の新左翼のことを考えれば、当然。もっとも日本は未だに共産党が昔の名前で出ていますが。

主演のアンヌ・ヴィアゼムスキー はゴダールの前妻アンナ・カリーナと同様なコケティッシュなタイプで、なんというか趣味丸出し。




「アントマン&ワスプ クアントマニア」

2023年02月27日 | 映画
MCUもこう多くなってくるとストーリーやキャラクターを平気で忘れるようになったし、いちいち予習復習をしているわけにもいかない。
で、いちいち気にしないでヒーローがワルモンをやっつける話でしょという雑な見方をすると、それはそれであまり困らない。
舞台になる多元宇宙あるいは量子世界というのもわかったようでわからないけれど、これまた気にしないという雑な見方になる。

異世界ぶりがきわめてはつきりして世界で、小市民ぶりが一番徹底しているアントマンがヒーローとして立つコントラスト。





「BLUE GIANT」

2023年02月26日 | 映画
柳沢きみおが漫画は音が使えないのが悔しいと言ったことがあるけれども(スマホ用のマンガにはすでに音があるし、ホラーではすごく効果的)、とはいえこの場合欠落している音楽そのものをふんだんに聞かせることに全力を注いでいる。

世界一のサックス奏者を目指すという設定なわけだけども最初の方からそれに近いのではないかと思わせてしまう。 もっとも音楽がショボかったら作品自体が全く成り立たないわけでその逆よりはよっぽど良いわけだが。

阿部薫は若松孝二作品でしか聞いていないから聞いた風なことは言えないが、吹き始めがちょっとあれっぽい音に聞こえることがあった。あそこまでエキセントリックではないが、河原で吹いているところが共通しているし。

原作読んでいないのだけれどもキャラクターの設定やその変化に関しては正直 ごくフラット。ただあまり問題にならないという感じはある。

ロトスコープやモーションキャプチャーなど 使って 人間の動きを 取り込んでいる 観客を含めて時々ゾンビかかって見えない見えるところはないでもないが 音楽のイメージ化、視覚化っていう点ではすごく徹底している。
 脚本が個人名ではなくてグループ名になったらどういうことなのだろうかきめつのやいばのそうなのだがシナリオ作りをチームシステムでやるって言うのが今の漫画界の主流ということなんだろうか。





「呪呪呪 死者をあやつるもの」

2023年02月25日 | 映画
ヒロインの妹が唐突に出てくるのが不思議に思っていたのだが 、もともと「新感染ファイナルエクスプレス 」のヨン・サンホ監督のドラマシリーズ「謗法 運命を変える方法」全12話の 劇場版ってことになるらしい。
見ていなくてもそれほど困らないが、全然アナウンスがないっていうのはどうだろう。

「新感染」同様、ゾンビの群れがすごい勢いで 走り回り、さらにカーアクションと組み合わせたスペクタクルは見もの。

製薬会社の企業悪の描写は型どおりではあるけれど、韓国映画らしく徹底してます。






「仕掛人・藤枝梅安 第一部」

2023年02月24日 | 映画
テレビの必殺が殺し場をショーアップし過ぎて忘れられていた、殺しだとわからないように殺すという勘所が復活した。鍼はデジタル技術で現実ではありえないくらい細いものとして表現できたらしい。

豊川悦司の梅安は好色というより女の方から寄っていく感じ。菅野美穂のおもんとのやりとりなどいい感じ。なのだけれど、ヤボを言うのはなんだが、自分から名乗る時は「お」をつけないで、ただの「もんと申します」だろう。
梅安の妹絡みのドラマは、相手が妹だと知らないままなので今ひとつ盛り上がらない。回想シーンの使い過ぎも気になった。

エンドタイトルに「侍 椎名桔平」と出るので、あれ出ていたっけと思ったらエンドタイトルの後の第二部につながるところに出てくる。
こういうエンドタイトルの後に金魚のフンみたいにシーンが続くのは、ものすごく長ったらしく感じるのでありがたくない。

思い切りローキーに徹した画面作りはオリジナルのテレビドラマの工藤栄一あたりから出発した光と影の交錯とはまた別の趣向。

池波正太郎のエッセイを含めた作品は食が大きなウェイトがあるわけだが、鯵の干物を炙った朝食に手をつけないで出かけたり、鍋もので煮えるのに時間がかかる大根がすでに煮えているのはどう仕掛けたのだろうと微妙に気になった。





「#マンホール」

2023年02月23日 | 映画
マンホールに落ちてしまった男がどうにかしていて脱出しようとするワン・シチュエーション・サスペンスかと思って見ていたら斜め上の展開が次々と続いて驚くことになる。

ただ、普通穴に落ちたりしたらまず警察か消防に助けを求めるのが当然だと思うのだがこの男はなぜか知り合いにばかり電話をかけて110番も119番もしようとはしない。
その辺りからどこか後ろ暗いところがあるなと思うし実際その通りになるのだがこのあたりのおかしいなと思わせる押しが弱い 。
何やってるんだ、早く警察呼べよと先に思わせてしまい、ノリを削ぐ。

押しが弱いというと、話のキモになる部分もかなり分かりにくい。
ほとんど全編マンホール内で展開する中、例外的に回想で描かれるのだが、実は時間軸がずれてましたという綾辻行人式の謎解きになるのかと思ったぞ。

とはいえ、中島裕翔はほとんど全編一人芝居の大熱演で、マンホール内の変な虫や化学物質の泡などの生理的な気持ち悪さは相当なもの。

#がタイトルについているように、ツイッター(のような)SNSを脱出ツールに使うのだけれど、仕掛けがあるにせよ今どきツイッター民がこんなに熱心にかつ有用に興味を示してくれますかね。それに真夜中の話ですよ。YouTuberの描写ともどもどうもリアリティーがない。「誰も守ってくれない」から一歩も出ていないズレた描写で、作り手の方だってSNS使っているだろうに、なんでこうなるかな。





「バビロン」

2023年02月22日 | 映画
「雨に唄えば」のサイレント映画からトーキ―へ移行するゴタゴタの描写はすごく笑えるんだけど、こちらのゴタゴタは全然笑えない。
センスの問題もあるのだが、それ以前にサイレント映画の表現というのがどんなものだったのか、わかるように押さえていないからではないか。
初めからすごくゴージャスな音(ドルビーアトモスで見た)が鳴り響いていて、それ自体はいいのだれどサイレントって感じがまるでしない。
サイレント映画の字幕を描いて撮影しているところは良かった。

バビロンというタイトルからしてケネス・アンガーの「ハリウッド・バビロン」を意識しているのは明らかだが、あそこのたとえば晩年のジュディ・ガーランドの写真一発の凄みは再現不可能だろう。

象が出てきたり、バカみたいな享楽的なパーティーが開かれたりなどはフェリーニ的になるモチーフだと思うけれど、ああいう造形力は真似できないし、エリッヒ・フォン・シュトロハイムが秘密主義で撮影しているスタジオから歯形や鞭の跡がついた出演者が放心状態で出てきたとかいう狂気がかった退廃は、コンプライアンス下で製作される現代では描くのはムリだろう。
何かと隔靴掻痒な感じが強い。
お金かかってるねー、と感心はするが。スカトロ趣味もなんだか秀才監督としては柄じゃない感じ。

イノセントな青年が狂気がかったハリウッドを地獄めぐり式に体験していくという体裁は「イナゴの日」風でもあるけれど、あそこまでグロテスクに踏み込むと今度は客が引くという問題もある。

劇中映画の監督が女だったり アジア系が出演していたり、使用言語も英語に限ずスペイン語やイタリア語が出てきたいと、今の映画だから 多様性 には大いに気を使っている。

マーゴット・ロビーはスリムすぎて往年のハリウッド女優の体形ではないなーと思って見ていた。





「崖上のスパイ」

2023年02月21日 | 映画
それにきても、張藝謀という人もまあ色々なジャンルに手を出す監督です。
今回はスパイもの、というかエスピオナージもので、このジャンルの通例としてかなり敵味方やストーリーは追いづらい。

満州国が舞台というから当然日本の関東軍が仇役になるのかと思ったら、大きな設定としてはそうだが顔のあるキャラクターはさっぱり出てこない。なぜなのかは不明。
前に南京事件を扱った「金陵十三釵」The Flowers Of War を撮っているのだから、日本を扱うのにやぶさかではないはずだが。
 
こうもさまざまなジャンルに手を出してテクニック的にも使い分けているのは器用だからには違いないが、何かあちこちに牌を置いているみたいなせきたてられるような感じもする。

雪の舞う街のヴィジュアルは白と黒の二色に塗り分けられていてイーモウらしく視覚的なコンセプトがはっきりしている。
その分、作り物っぽい感じにはなった。

上映中の映画がチャップリンの「黄金狂時代」というのは出来すぎている感じ。





「FALL フォール」

2023年02月20日 | 映画
ふたりの女子がYouTubeに乗せるために高さ600メートルの放送塔に上ったら、ハシゴが老朽化していて壊れて下りられなくなってしまうというおそろしく単純な設定のワン・シチュイエーションドラマとしては強力で、何より目がくらみそうな高さの表現がすごい。とにかく作り物じみたカットがない。

ただ、いかに何でもやってることがバカすぎるし自業自得と言われても仕方なく、だから冒頭にシリアスなエピソードをつけて酒におぼれていたのが恐怖と困難を克服するドラマの体裁をつけているもので、107分という割と長めの仕上がりになった。

スマホをクッションにくるんで落とすのだったら、アレが使えるのではないかとか隙が見えるところが散見するのだけれど、意外と芸術的な表現が紛れ込んだりして、必ずしもシンプルに徹しているわけではない。





「対峙」

2023年02月19日 | 映画
犯罪被害者と加害者を一対一で対峙させる試みのテレビ番組の抜粋は前にCBSドキュメントで見た覚えがある。
これは学校内の銃乱射事件の被害者の生徒の両親と、乱射の後自殺した生徒の両親の二対二の対峙のドラマにアレンジしてある。(それにしても今年に入ってアメリカでは四人以上の死者が出た乱射事件が72件発生しているって、銃規制が一向に進まないのを含めてただごとではない)

こういう試みと言うのがどの程度アメリカに特有なものかはわからないが、膨大な量のセリフあるいはコトバを重ねて逆説的になるが言葉にならない苦悩と怒りを表象する。こういう習慣というか劇作というのは、どうも日本には馴染みがない。
これだけ言葉にできるだけの訓練と習慣、気力と誠実さがあるだろうか省みたくなる。

原題はMass(ミサ)で、舞台を教会に設定してあることからも、部屋の中に飾られている十字架が自然に目に入ることからも宗教的モチーフはあるのだろうが、さほど目立たない。

それにしてもおよそ馴染みのない出演者たちによる目覚ましい演技、セリフ術はどうだろう。






「レジェンド&バタフライ」

2023年02月18日 | 映画
信長がやったとされることの多くは実は美濃の蝮こと斎藤道三の娘である帰蝶=濃姫が裏で糸を引いていたみたいな話で、考えようによってはマクベス夫人みたい。
桶狭間の前に兵たちを演説で鼓舞せよというあたり、子孫に誇る闘いに参加できる云々を含めて「ヘンリー五世」っぽい。ただし長さは全然足りない。

初対面で綾瀬はるかが身体能力の高さを発揮してキムタクの信長をひねり倒し、プロレスでいうインディアン・デスロックみたいな固め技を棒=刀の鞘を併用して決めるのが可笑しかった。

もともと信長は若い時はうつけと言われ、濃姫にはしきりと小わっぱと形容される、つまり良くも悪くも子供っぽいキャラクターとして描かれ、いわゆる信長の天才性、常識に捉われない部分というのはそのチャイルディッシュな面が出たようでもあり、逆に魔王と呼ばれたりする残虐さにもつながってくる。
その子供っぽさを濃姫が包み込むというわけではない、また内助の功というわけでもない描き方をしているわけでもないのがさすがに大作日本映画でもフェミニズム的な面が出てたように思う。
業績を女だからといって無視されている面もある。

それにしてもキムタクも五十歳で、信長が死んだ四十八を過ぎているのを小わっぱ呼ばわりされるのはさすがに強引。

冒頭、カマキリとバッタが絡み合うように交錯する、一見カマキリにバッタがとって食われてしまいそうでそうはならないのが二人の関係の暗示になっているということだろう(必ずしも信長がカマキリではない)。

もともと濃姫はあまり史実が残っていないらしいのでかなり創作を入れられたということらしいが、どうせならラストなど思い切って信長と濃姫が南蛮にまで行くくらいのホラふいて良いと思った。映画なんだから。

桶狭間や長篠など主要な合戦がすべて事後描写というのは珍しい。

信長に対する光秀(宮沢氷魚)の描き方が「ジーザス・クライスト・スーパースター」のユダみたいな愛憎混じりなのが、家康(斎藤工)のしれっとしたふてぶてしさと共に芝居として面白い。

東映70周年記念作とはいえ、東映の顔らしいのが道三の北大路欣也くらいというのは、映画スターの時代ではないのだなと思わせる。
製作のトップについ先日亡くなった手塚治前社長がクレジットされているのが妙な感じ。





「Sin Clock」

2023年02月17日 | 映画
ケイパー(現金強奪)ものって最近珍しい。
だいたい実際に持って歩ける現金というとせいぜい数億で、コンピューター上のただの数字となるといくら金額が大きくても抽象的な数字でしかなくて映画の画にはならないもので、作りにくくなっている。

政治家絡みだったり現金とは限らず絵だったり、いろいろやっているのだが目新しさには乏しい。
何よりタイトルになっている時間のトリックがセリフでの説明にしかなっていないので見ていてどうにもピンと来ない。時間の表現というのは映画の得意とするところというか、本質に触れるところだと思うのだが。

前半はわざとだらだらと冴えない男たちを撮っているのかと思うと、神戸を走るタクシーとぴしっとスーツを着こなしたドライバーが並ぶ画はスタイリッシュ。「レザボア・ドッグス」狙いか。

暴力描写はかなりハードだけれど、スプーンで目を抉り出すというのは「異端の鳥」にあったので既視感の分ソンしている。




「グレイハウンド」

2023年02月16日 | 映画
トム・ハンクス脚本・主演。ハンクスは小説も書く人だし、自分の監督作で脚本も兼ねることはあるから意外ではないが、監督は別の人に任せた。

作家性というより手練れの駆逐艦対潜水艦の戦争アクションで、しかし人の命が失われるものでもあることも押さえたウェルメイド志向映画。

駆逐艦対潜水艦ものの古典に「眼下の敵」があるが、ああいう両者をほぼ対等に描いて敵ながらあっぱれといった感情に傾く作りとは違って、潜水艦側はしばしば嫌ったらしくプレッシャーをかけてくる。
姿を見せない分、単純に敵役になっている感。




「金の国 水の国」

2023年02月15日 | 映画
予告編で大福餅みたいなお姫さまのキャラクターデザインを見て、アニメでこういうのは珍しいなと思った。ブサ可愛いというのとも違う。
ふたつの国の片方で一番美しい娘と、もう片方で一番賢い男を結婚させるという取り決めなのだけれど、どちらもありがちなアニメ的なパターンからは大幅に外れている。

イケメンキャラが出てくるのでイヤミな悪役なのかと思ったら意外といい奴だったりとパターンのずらし方に工夫がみられる。

かなり登場人物が多くて複雑な話なのだが、それを短い回想を多用して説明する方法はちょっと消化不良気味。

富はあっても水がない国と水はあっても貧しい国とが争って武力併合で問題解決するのではなく和平で共存共栄の道を探るという話は、今や甘いと笑う気にはならない。





「マクベス」(2021)

2023年02月14日 | 映画
魔女の姿が異様にねじくれて一つの身体に複数の身体を組み合わせたようで、一人で登場したかと思うと三人になったりする。聖三位一体ならぬ悪の三位一体といったイメージかと思う。

白黒の異様に整頓されたこれまでのジョエル・コーエン作品(兄弟ではない初の単独監督作)のどれよりも表現主義に徹した画作り。
VFXを縦横に使ってサイレント映画時代の表現主義映画の画面を、さらに壮大緻密に作るという方法論と思える。

デンゼル・ワシントンのマクベスは特に後半の人格が荒廃してからの表現にオスカー受賞の「トレーニング・デイ」につながる現代性を見せる。