エストニアが舞台なのだがセリフは英語。
エストニア・イギリス合作。実話に基づく。
スタッフ・キャストの経歴を見ると監督ペーテル・レバネ はエストニア出身で交換留学生としてイギリスのオックスフォード大学に留学し、それからアメリカのハーバード大学と南カリフォルニア大学で学んだとある。
原作者でもある主人公セルゲイ・フェティソフを演じるはイギリスの王立演劇学校出身のトム・プライアー 。脚本にも参加している。
セルゲイは2017年というからかなり最近まで生きていたとエンドタイトルで知らされる。
相手役のロマン役のオレグ・ザゴロドニーはウクライナ出身。
三角関係(といっても男をはさんで男女が関係する)の一角をなすルイーザ役はロシア人のダイアナ・ポザルスカヤ。
他エストニア他旧ソ連各国とイギリス俳優の混成ということになる。
男同士で愛し合う話で、日本では18禁だがそれほど扇情的な描写は出てこない。
軍隊では同性愛は五年の刑で、何が目的なのか上層部にチクる謎の密告者もいる。
その密告者の素性を忘れかけた頃明かすところや、至るところでフィルムで撮影される写真(時代は大体においてソ連のアフガニスタン侵攻前)を小道具として使うところなど、脚本構成は緻密なもの。
エストニアは旧ソ連の民族共和国で、今では行政のデジタル化が世界最先端というのでも知られる。
こう言うと何だが、エストニアみたいな小国が最先端と言われると違和感を感じるが、実は小国「だから」デジタル化が進んだとも言えるわけで、ソ連あるいはロシアみたいにバカでかい国がそばにあったらいつ呑み込まれるかという不安は常にあるだろうし、現に最近まで呑み込まれていたわけで、そのために行政上のデータをデジタル化して独立させ大国でも手がつけにくいようにしている、利便性だけではなく、独立を担保する手段になっているというらしい。
そういう独立志向は、同性愛というモチーフを旧ソ連圏であるにも関わらず堂々と押し出している今回の映画の実現にも資しているのではないか。
エンドタイトルの最後にロシアでは同性愛が非合法に「なった」と出るので、昔は非合法だったが今は合法になったのかと勘違いしかけた。
除隊したセルゲイはモスクワの演劇学校で学び、「ハムレット」の上演風景も出てくる。舞台装置に盛り上げた砂を使うなどなかなか面白い。
タイトルのファイアバードとはもろにストラヴィンスキーの「火の鳥」のことで、作品中主人公二人が見に行くのとラストのコンサートの演目でもあるし、大尉が戦闘機乗りというのにもかけているのだろう。戦闘機が事故を起こしかける描写もある。