よそから来た作家にあこがれて駆け落ちのように一緒に出奔するが結局流産して別れる女性の話はチェーホフの「かもめ」、二度と手に入らない見事な木材を使った屋敷を新興の政治家と開発業者に奪われる元有力者とその周辺の話は「桜の園」をそれぞれ翻案したわけだが、翻案という感じもしないくらいはまっていて、改めてチェーホフの小さなドラマの普遍性を知らせる。
かつては実在した魚クニマス(国鱒)を象徴的に扱い、彦三頭巾で顔を隠し端縫いのた西馬音内盆踊り(別名亡者踊り)を幻想的に生かす。「かもめ」のニーナにあたる、都会生活にあこがれて故郷から出ていく楡名がモダンダンスを踊るのが対照的。
以下、ホームページより転載
<キャスト>
内田里美 加藤大騎 堀越健次 村山竜平 室岡佑哉 岩畑里沙 岩本巧 田中結 神山一郎 井吹俊信 大林ちえり 池田将 井吹俊信 高田大輝 西馬音内盆踊り手たち
照明:桜庭明子 音楽・音響:小森広翔 美術:高橋佑太朗
ダンス指導:社団法人中川三郎ダンススタジオ 協力:村山竜平(演劇団周)
宣材デザイン:橋本すみれ 西馬音内盆踊り指導:吉田幸子
<なぜ今チエホフなのか?>
チエホフが「かもめ」「桜の園」などを立て続けに書いた1890年代は、腐敗した貴族や中央官僚が倒されて労働階級が支配者になるロシア革命前夜、人々は希望と共に不安と絶望に晒されていた。今の日本はコロナによって、政治家や中央官僚の腐敗が見えてきて、人々は先が見えない不安に晒されている。
『端縫いのクニマス』はチエホフの時代と変わらない不安で生き難いコロナの現代を「かもめ」に習って、自分の欲望に忠実に、泣きながら生きる4人の女性と8人の男たち…きっと、あなた自身の物語である。
脚本・演出の石黒健治は写真集「広島HIROSHIMA NOW」で、市民の視点で原爆を投下された広島の日常を描き、「青春1968」では新しい時代を作ろうとする若いスターたちを撮った。同時に今村昌平監督「人間蒸発」の撮影担当、「サキエル氏のパスポート」の執筆刊行など、人間のドラマを学んできた。
プロデュースの高畠久は、そんな石黒健治監督で映画「無力の王」をプロデュース、1970年、唐十郎、緑魔子主演で劇画の映画化の先駆けになった「銭ゲバ」のプロデュースと脚本、ショーケンと水谷豊の存在を確立した「傷だらけの天使」の脚本など、こぼれ落ちた人間たちの視点で社会を描こうと試みてきた。その2人が組んで演劇にチャレンジする。