中原中也と小林秀雄と長谷川泰子の三角関係を扱ったドラマ。といっても長谷川泰子という女優は寡聞にして知らなかったし、小林秀雄が登場するのはかなり遅いしで、いわゆる有名人の三角関係というわけでは必ずしもない。
男ふたりが女ひとりをはさむ関係というのは実際にはともかくフィクションだと「冒険者たち」「明日に向って撃て!」みたいに爽やか寄りになるが、これも二人の男は互いの文学的才能には敬意を表している。厳密にいうと詩人と評論家なのだからもっと対立してよさそうだけれど、そうはなっていない。
実名を使っているのは映画.comのインタビューで根岸吉太郎監督も語っているが、昭和初期(映画でいうとサイレント期)は半ば時代劇という認識かららしい。
最近でいうと「シンペイ~歌こそすべて~」みたいに楷書体の演出向きということになる。
脚本の田中陽造は「ツィゴイネルワイゼン」や「ヴィヨンの妻」で内田百閒や太宰治といった特定の作家のいくつかの作品を組み合わせていく作風が印象的だったけれど、日活の人脈からロマンポルノにつながりデビュー間もない根岸吉太郎監督とも「女教師 汚れた放課後」で組んでいる。
作中のサイレント映画の再現ぶりには不満が残る。感度の低い白黒フィルムの質感の再現自体が難しくなっている。