ミュージカル、といっても大がかりで華やかなショー仕立てではまったくなく、もっぱら素の演奏と歌だけで通していて、映画的な広げ方もかなり抑え気味。撮り方もやたらとあちこちから狙わず二箇所くらいから丁寧に演奏者をまるごと捉えるように撮っていて、ときどきそばにいる無関係な傍観者の姿がひょいっと入ってくる。この無関係な人がどことなく歌を楽しんでいるのがわかるのがなんともいえず暖かい感じを出すし、本格的にスタジオ録音をする場面で決定的にものをいってくる。
出会いの男が一人で街角で歌っているのをアップでずっと撮っていて、すうっとカメラが後退すると女性の後ろ姿が入ってくるこれまたシンプルな撮り方からはじまるラブストーリーとしても、国の違いとか実は相手が既婚者でしたとかいった綾のつけ方でいくらでも膨らませようがありそうなのが、結局歌と演奏を通じてつながりを持てたということ自体の歓びに絞り込んでいるのが物欲しげでなくていい。