8月16日(日) つづき
夜、12時過ぎに風呂から上がって、NHK-FMラジオを聴きながら、読みさしだった佐野洋『検察審査会の午後』(光文社文庫)を読む。
かつて新潮文庫から出ていて絶版になっていたのを、裁判員制度の導入をきっかけに、版元をかえて再版したもの。
よく調べて書いてある。検察審査会の事務局や検察審査員経験者からかなり取材をして書いたそうで、刑事訴訟法や裁判法の教科書に書いてあるような、通り一遍の検察審査会の説明からはうかがい知ることのできない制度の運用の実態まで知ることができた。
しかし、そこは作家の手になる小説。あくまでも検察審査会の「午後」の話である。
主人公は、バツ一の中年高校教師。検察審査員の補助員に選任され、不承不承出席するが、審査員の中に、かつての恋人と声がよく似た(声というと、大原麗子を思い出すなあ・・・)女性を見つける。
45歳の彼女もまたバツ一であることが分かり、毎回審査会の終了後に、裁判所前の喫茶店でお茶を飲む仲になる。
・・・と、要するに、中年男の「恋」物語である。
一線を越えられないまま、審査員の任期が終わってしまうが、ラストで、女のほうから温泉旅行の誘いが届く。
恋は中年になってもはかなく終わらせておいたほうが良かったのではないか。
* 写真は、佐野洋『検察審査会の午後』(光文社文庫、2008年)の表紙カバー。