豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

G・シムノン「名探偵エミールの冒険 (2) 老婦人クラブ」

2024年10月18日 | 本と雑誌
 
 ジョルジュ・シムノン「名探偵エミールの冒険 (2) 老婦人クラブ」(長島良三訳、読売新聞社、1998年)を読んだ。
 「名探偵エミールの冒険」シリーズ全4巻を借りてきたのだが、最初に読んだ「エミールの小さなオフィス」(第1巻「ドーヴィルの花売り娘」所収)から期待外れの出来だったので、各巻の表題作だけ読んで図書館に返却してしまったのだが、この第2巻だけは何も読まないまま返却するか迷っていた。で、小さな時間があったので、表題作の「老婦人クラブ」だけ読んだ。
 「老婦人クラブ」という題名からしてまったく読む気が起きなかったのだが、読んでみるとぼくが読んだ「名探偵エミール」シリーズの中ではこれが一番よかった。辛うじて及第点というレベルではあるが。
 50歳以上のセレブ女性だけが入会できるパリの婦人クラブが舞台である。このクラブに女装して紛れ込んで入会した男がいるというので、会長の老婦人からエミールに調査の依頼が来る。エミールは男の素性を調べ上げるのだが、突如老婦人から調査の中止を申し渡される。さて、・・・といった話である。
 この小説が書かれた1943年頃のフランスでは、50歳以上の女性は「老婦人」“vieilles dames” だったとは! 文中には「可愛い老嬢」などという表現も出てきたが、フランスではそんな存在もいるのか。
 これで「名探偵エミール」ものはお終いにしよう。

   

 本巻の巻末エッセー「シムノンを訳す喜び」で、訳者長島氏のメグレとの出会いが語られる。大学(仏文科)1年の夏休みに、フランス語を半期学んだだけでシムノンの「メグレと若い女の死」と「メグレと殺人者たち」の2冊(もちろん原書)を丸善で買ってきて一夏かけて読破したという。ぼくの大学1年の頃のフランス語力と何という違いか。
 ぼくも大学1年生の頃はフランス・レジスタンスへの思い入れは強かったのだが、夏休みに読んでいたのは淡徳三郎「抵抗」と「続・抵抗」、アンリ・ミシェル「レジスタンスの歴史」(クセジュ文庫、もちろん日本語訳)だった。
 大学1年の後期授業ではドーデ「星」、メリメ「マテオ・ファルコネ」、さらに「星の王子」なんかを読まされ、放課後のアテネ・フランセではモージェの日常会話ばかり読んだり喋らされていた(泣)。あの頃、メグレ警部ものでもテキストに指定してくれる教師がいたら、ぼくのフランス語は違う方向に進んだのだろうか? おそらくそれでもだめだっただろう。

 長島氏は、5年かかって大学を卒業後、出版社に15年勤務した後に独立して翻訳家になったという。留年、出版社勤務、独立というキャリアは割とぼくの人生と似ている。ぼくの出版社勤務は9年間で、退職後は教師になったが。彼はメグレもの78冊のうち、30冊以上を翻訳したという。河出書房のメグレ警部(いつの頃からか警視になった)シリーズの多くは長島氏の訳だった。シリーズの企画自体も彼だったのではないか。
 彼には、「メグレ警視」(読売新聞社、1978年)という著書があり、さらに「名探偵読本2 メグレ警視」(パシフィカ、1978年)という編著もある。これらでメグレに関する基礎知識は十分に得られるが、最近ではネット上にもっと詳細な書誌目録や映画化なども含むメグレ研究のページがある。
 ※ 「名探偵読本 メグレ警視」に挟んであったジル・アンリ「シムノンとメグレ警視」(河出書房)の書評(朝日新聞(1980年か?)11月2日付、「安」名義)によると、メグレものは102編あり、河出版「メグレ」全50巻の完結によって未訳の作品は10数編に減ったとなっている。

 2024年10月18日 記

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