きのう、神保町を歩いていて、篠村書店の前を通りかかったとき、何かがぼくを呼んでいる気がしたので店内に入ってみた。そして、鉄道関係の書棚を眺めると、たちどころに「草軽電鉄の詩」(郷土出版社)が目に飛び込んできた。間違いなく、こいつがぼくを呼んでいたのだ。以前(先日の神田古本市のときには)はなかったのだが。
1995年刊で当時の定価が1800円だったけど、篠村書店は鉄道専門だから、いくらくらいの値をつけているのだろうか? かつて篠村は社会科学書専門だったのに、いつの間にか書棚の半分近くが鉄道関係の古本になっている。恐る恐る裏表紙を開いてみると、3刷、2300円となっていた。
まあ、リーズナブルな値段だろう。ボーナスも出たことだし、早速購入して帰った。数か月前には、Amazon.com で1万何千円なんて値段をつけているのを見かけたが、いくらなんでも法外な値づけである。
草軽電鉄については、昔、「草軽電鉄五拾年誌」(軽井沢書林)というのを、五反田の古本市で抽選で3000円で手にいれた。当時の切符(実物)と、走行音などの入ったレコードがついている。
この本は私家版のような本だが、その後書店の店頭や古書店の目録、さらにはgoogleの検索でも一切見かけることのない稀こう本である。草軽電鉄に関する記述内容は大したことはないが、映画や小説に登場した草軽鉄道がスチール写真などによって紹介されていて、大正、昭和時代を背景とした草軽鉄道の姿が浮かび上がってくる。
これに対して、今回入手した「草軽電鉄の詩」は、もともとが草軽電鉄の関係者らによる書物だっただけに、内部の事情に詳しく、沿線風景の写真も多い。
ぼくは昭和32、3年頃に旧軽井沢駅に停車している草軽電車の車両を見た記憶があるのだが、2両編成の客車しか記憶にない。
今回この本を眺めてぼくが一番不思議に思ったのは、草軽電車は昭和35年の廃線になる最後まで、いわゆるカブトムシ(デキ12型といったらしい。電気機関車の略か?)に引かれて走っていたらしいことである。写真まであるのだから間違いない。
確かに廃線直前の車両は2両編成である。しかし、ぼくの昭和32、3年の旧軽井沢駅の記憶には、このカブトムシがまったくないのである。あれほどに独特の形状をした電気機関車がなぜにぼくの記憶に残らなかったのだろうか。
鉄道マニアでもなかった小学2、3年生のぼくにとっては、草軽電車が56歳の今まで記憶の片隅に引っかかる存在になるとは、その当時は思いも寄らないことだったのだろう。人は見る目をもって見ていないと、何も見ていないのである。
(写真は、思い出のアルバム草軽電鉄刊行会編「写真集・草軽電鉄の詩--懐かしき軽井沢の高原列車」(郷土出版社、1995年刊)の表紙)
2006/12/21