熱海のMOA美術館で”又兵衛絵巻と北斎・広重風景版画の名作”展が開催されている。MOAは岩佐又兵衛コレクションが充実していて、今回も華やかな”浄瑠璃絵巻”が展示されているというので、楽しみにしていた。加えて、ぼくの好きな、北斎の”冨嶽三十六景”、広重の”東海道五十三次(保永堂版)”まで公開というのだからこたえられない。遠くまで(とは言っても、東海道線で1時間で来てしまうのだ。それに駅から美術館までバスがしょっちゅう出ている)来たかいがあった。
北斎、広重はいつでも見られるが、江戸時代、浮世絵又兵衛と評価の高かった、又兵衛の作品はめったにみられない。最近では東博で”洛中洛外図屏風(舟木本)”を観たが(でも東博では作者不詳としている、美術史家のあるボスが浮世絵又兵衛を認めないのに基因しているのだろう)、すばらしい作品だった。
さて、今回は絵巻ものである。それも12巻すべての展示で、もちろん全部開くことができないから(1巻が11メートルもある)、それぞれの巻の名場面が開かれ、ガラス越しに観ることになるのだ。”浄瑠璃物語”というのは、義経と浄瑠璃姫の恋物語で、金売吉次の刀持ちとなって、陸奥へ下る途中の牛若丸が、長者の家の浄瑠璃姫を見染め、その夜契りを交わす。その後、旅の途中、牛若は殺されるが、追いかけて来た浄瑠璃姫の落とす涙で生き帰り、牛若は彼女を大天狗の背負わせ、家に戻らせる。ところが母親が彼女の行動に激怒し、彼女を殺す。それを知った牛若が、彼女を成仏させ寺を建て、母親を殺す。そして平家をほろぼす、大筋はこんなところである。この物語は人形芝居になり、その後、発展した”浄瑠璃”は、この物語の題名からきているとのことだ。
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絵巻物は、達筆な物語文のよこに、又兵衛工房の絵が描かれているいう構図である。とにかく色彩の鮮やかさには驚かせる。まるで、1,2年前に描いたような新鮮さだ。余程、保存状態がいいのだろう。そして、舟木本のときも感じたが、とにかく、人物(こんどは女人が多いが)一人ひとりの顔の微妙な表情、衣装の模様も細かい模様にまで手を抜かず描かれている。それぞれの人々のひそひそ話、笑い声、悲痛なうめきまできこえるようだ。
圧巻は、第4巻、四季の段、姿見の段、枕問答の段、そして第5巻、大和言葉の段、精進問答の段、御座うつりの段、だろうか。牛若は浄瑠璃姫の館に招き入れられ、対面し、夜契りを交わす場面のあたりである。姫の部屋の東西南北に四季折々の草花が描かれた障子、枕屏風や襖の絵模様、姫の麗しい衣装、それぞれ単独に、拡大して展示して貰いたいようなうつくしさであった。ここでは、その一部の、牛若と姫の対面の場を紹介する。
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大変、満足し、次の部屋に移った。驚いた、又兵衛の作品がまだまだあったのだ。展示は絵巻物だけだと思っていたので、とても得した気分だった。竹の椅子に座り竹の杖をもつ晩年の”又兵衛自画像”その横に”岩佐家系譜”、そして、官女図、楊貴妃図、伊勢物語図、寂光院図、柿本人麻呂・紀貫之図である。それらのほとんどが重要文化財である。電車の中で、新潮日本美術文庫”岩佐又兵衛”(藤浦正行著)を読んでいたが、それらの作品のほとんどが載っていたので、以下に紹介する。今度は、ぜひ”山中常盤物語絵巻”も展示してほしいな。これもMOA所蔵なのだ。
又兵衛自画像と官女図
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寂光院図(建礼門院が読書している)と柿本人麻呂・紀貫之図
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楊貴妃図
そして、次の展示室は、北斎の”冨嶽三十六景”、広重の”東海道五十三次(保永堂版)”。数えたら(汗)、三十六景中25作品が、そして53次中29作品が展示されていた。赤富士、神奈川沖、山下白雨そして、蒲原の雪景色、庄野の雨、名作はみんな入っていた。
午後1時半頃、見おわって、美術館のレストランに行ったら、長蛇の列。すぐ山を下りて、熱海駅前の蕎麦屋に。ひさしぶりに、ソ連(ソバ連)の杉浦日向子さんみたいに、ソバ屋で昼酒してしまった。熱海の芸者さんがソバにいてくれればもっと良かったんですが
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