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【cinema】『チャイルド・コール 呼声』

2013-05-03 02:22:29 | cinema
'13.04.17 『チャイルド・コール 呼声』@ヒューマントラストシネマ渋谷

何で応募したのか忘れちゃったけど、招待券当選した フリッカポイカさんありがとうございます! 意外に時間が合わなくて1度は諦めたけど、何とか見に行けてよかった! すっかり書くの遅くなっちゃったけど、レビュースタート♪

*ネタバレありです!

「夫の息子への虐待が原因で離婚。息子アンデシュと2人の生活を始めたアナ。心配のあまり購入したチャイルド・コールからは、アンデシュのものではない子供の悲鳴が聞こえてくる。同じマンション内で子供が虐待されているのではないか・・・」という話。こういうの何ていうんだろ? サスペンス・スリラーかな? オカルト要素も入ってる? オカルトのことがあんまり分かってないけど・・・ うーん、話としてはありがちだけど、ノオミの演技とノルウェーの暗い感じがなかなか良くて、個人的には好きだった。おもしろかったかと言うと違うけど(o´ェ`o)ゞ

チャイルド・コールというのは一方的な無線のような感じ? 本当はベイビー・コールというらしく、原題も『Baby Call』 キーパーソンでもあり、アナと恋愛一歩手前みたいな関係になる家電売場担当ヘルゲに、息子は8歳だけど心配だからって説明してたので、名前のとおり赤ちゃん用なのかも。寝ている赤ちゃんのそばを離れて、ご飯のしたくするとか・・・ アナとしては心配だから一緒に寝たいけれどアンデシュが嫌がるので、チャイルド・コールを彼の枕元に置いて異変があれば直ぐに駆けつけることができるので、苦肉の策というわけ。とにかくアナの怯えっぷりが異常で、学校の送り迎えならまだしも、校庭のベンチに座って授業が終わるのを待ってしまい、先生から注意されるしまつ。何故、彼女がそこまで怯えているのかってことは、時々裁判記録のようなものを読んでいたり、日記らしきものを書いているので、その内容からすると前夫のアンデシュへの虐待があったらしいことが分かる。でも、この辺りもアナ達の保護観察官(?)の男女が、アナの保護者としての能力を疑い、虐待自体もアナの妄想なのではないかと言い出すため、混乱してくる。もちろんそれが狙いで、ノオミの演技や演出も不安を煽るような感じになっている。これは、アナ親子の問題と、もう1つの虐待を探るサスペンス的要素も描きたいためで、いずれにしても"アナの妄想"なのかどうかがポイントになっているから。それにしても、虐待していた事実があるのに前夫が望めばアンデシュに会えるというのにはビックリ(´゚Д゚`)ンマッ!!

どうやらポール・シュレットアウネ監督が、この映画を撮るキッカケとなったのもこの辺りにあるらしい。新聞でDVに関する記事を読んで興味を持ち、その事件を追って構想を練り、撮影入り直前にお子さんが生まれたことで、より思い入れが深くなったのだそう。2005年2月に起きた8歳の少年の義父による虐待死事件は、ノルウェー人の心に大きな傷を残したそうだけれど、近年ではDVが深刻化していて、離婚の原因がDVであっても面会権があることを監督ご自身もおかしいと思っているとのこと。前述したとおり、その辺りのことを、妄想をキーとしたサスペンスタッチで描きたいのは分かるんだけど、ちょっと要素が多いというか、ごちゃごちゃしてしまった印象・・・ アナが怯えまくっていること自体も実は伏線だったりするのだけど、そういう要素がわりと多くミスリードさせるエピソードなのだと思うけれど、オチが分かった後で思い返しても、それだけで説明するにはちょっと強引だったりして、結果ほったらかしになってしまっている感じがするのが残念。

多くなり過ぎた要素の1つにヘルゲの存在がある。アナに好意を持つヘルゲは、明言されないけれど子供の頃に虐待にあっていたらしい。過干渉な母親に良くも悪くも支配されているけど、その母親は死の床についている。この母親とヘルゲの関係を、アナとアンデシュになぞらえたいのだと思うけれど、そのわりヘルゲを生かしきれていない印象。既に自発呼吸できない母の命の期限を決定するシーンや、その後のシーンは悲しくて辛かったけれど、直接アナの事件とは関係がないし・・・ この母の死が何かを示唆していたのかな? だとしたら自身の理解が足りなかったのかもしれないけれど・・・ ヘルゲ役のクリストファー・ヨーネルがちょっと神経質そうな感じで好演していたので、もったいなかった気がしただけ。

チャイルド・コールから聞こえてきた声をアナが探るというサスペンス部分は、2人が住むマンションというか、集合住宅というか、多くの人が1つの建物内に住んでいるのに、お互い全く知らないという孤独感というか、寒々しさみたいなものも作用して、なかなかおもしろかった。チャイルド・コールから聞こえてこなくたって、隣人には虐待の声は聞こえているだろうに、無関心であるという寒々しさも感じた。この建物自体のデザイン化されていないシンプルなデザインみたいのはちょっと好きだった。アナが1人で森へ行くと湖で、アンデシュと行くと駐車場であるというのは、妄想モノ(?)にありがちではあるけれど、後にここが重要な場面となって現れるのはおもしろい。ただし、そのシーン自体や、湖で溺れたはずのアナが目覚めた後の状況とか、その後の行動や、その場面に関わっていた人たち全てについて、オチが分かった後、そのオチだけで納得させるのは強引な気がする。

以下、ネタバレありです!

察しのいい方はこの時点で既に気づいてしまっているかもしれないけれど、要するにアンデシュは既にこの世にはいない。映画の中でもわりと早い段階で、職場の下のカフェで見かけたと言うヘルゲに、アンデシュといたと語るアナ、イヤ1人でいたじゃないかと返すヘルゲというシーンが出てくるので、この時点でアンデシュは死んでるのかも?と気づくと思う。夫による虐待死でアナは2年前から1人で暮らしている。精神的に不安定なのは多分事実。アンデシュが見えている件については、実はアナの妄想というだけではない。アンデシュが連れて来た友達は、実はアナがチャイルド・コールで傍受した虐待されている声の主。アナの捜索もむなしく彼は殺されてしまったのだった。アナや友達が信仰している宗教があるのか不明だけど、映画の中ではどうやら遺体が発見されないと成仏できないってことらしい。キリスト教圏でもそういう思想はあるのかな? で、友達の遺体が発見されるよう、事件が明るみに出るように、アンデシュは一役買い、母親であるアナを利用したということらしい。食事に招かれたヘルゲの前に姿を現したのは友達。ヘルゲは彼をアンデシュだと思ったけれど、これにも多分意味があるのだと思うのだけど・・・ 友達が僕達は似た者どうしだと虐待の痕を見せるシーンがあるので、おそらくヘルゲも子供の頃虐待されていたことを暗示しているのだろうし、後の伏線でもある。

アナは何故か管理人の男性を、保護観察士(男)だと思い込み、さらに彼からセクハラを受けていると妄想している。彼のセクハラから身を守るためヘルゲを食事に招待し、上記のシーンとなるわけだし、後にヘルゲがある重要なシーンの目撃者となることの伏線でもある。このセクハラ妄想もアナを精神的に追い詰めることに一役買って、ついに彼女は男性保護観察士(本当は管理人)を殺してしまう。殺人を犯してしまったアナは、アンデシュを道連れに窓から飛び降りて自殺してしまう。チラシなどになっているアンデシュの頭を抱いているノオミのアップは実はこのシーン。このシーンは切なかった 駆けつけたヘルゲの目には落ちていくアナの姿が・・・ 地面に横たわるのはアナ1人でアンデシュの姿はない。映画は実はこのシーンから始ったので、ヘルゲの回想なのかな? それか妄想?←これは考え過ぎか(笑)

アナの死後、ヘルゲはアンデシュが虐待死していること、アナは2年前から1人暮らしであることなどを知ることになる。そして、彼はあの湖があった場所に行き、友達の遺体を発見することになる。アンデシュと友達が語っているシーンで、彼を発見する役割をアナにさせているけど、アナには荷が重過ぎると言っているので、ヘルゲに役が回ってきたということかと・・・ アンデシュがアナの妄想なのかどうかについては、これらのシーンからして妄想ではなく、幽霊という形で存在していたということだと思われる。最終的にアナが自殺していることから、これはアンデシュが望んだことなのだと思う。彼はアナを連れて行きたかったのか、苦しむアナを助けたかったのか、それとも自分を守りきれなかったアナへの罰なのか・・・ その全部なのかもしれない。そう考えると切ない

キャストはアナのノオミ・ラパスしか知らなかった。ヘルゲのクリストファー・ヨーネルは『孤島の王』に出演していたらしい。『孤島の王』は評判良かったけど未見。機会があったら見てみよう。前述したとおり神経質そうでもあり、母親の強い支配から、対人関係に臆病になっている感じを好演していたと思う。よくも悪くも親の存在が大き過ぎるのも問題なのだなと思わせた演技は素晴らしい! 英エンパイア誌による読者アンケートで、映画史上最もセクシーな女性キャラ25人に選ばれた、元祖ドラゴン・タトゥーの女ノオミ・ラパスの演技がスゴイ! 前述したとおり早めにオチが分かってしまう中、それでも退屈することなく見れたのはノオミの演技のおかげ。彼女が正常なのか? 精神的に病んでいるのか? っていうところが重要だけど、それでも虐待殺人は本当に起きたと思わせなきゃいけない。ということは、危ういけれどアナは正常に見えなきゃダメなわけで、その辺りをギリギリのバランスで演じていたと思う。何よりあのリスベットが全然機能しないじゃないかという歯がゆさもイイ! イヤ、あまりに強烈な役を演じたり、役柄が一人歩きしてしまうような大作に出てしまうと、そのイメージが払拭出来ず、結局役者を苦しめることになったりする。『タイタニック』後のレオナルド・ディカプリオとか・・・ でも、元祖ドラゴン・タトゥーの女という称号は、そういう所を越えたリスペクトのようなものを個人的には感じている。この役自体はそんなに魅力のある役ではないし、特別ノオミでなくてもいい気はするけれど、ノオミじゃなかったら作品自体もっとつまらなくなってしまってたんじゃないかと思う。素晴らしい!

オフィシャルサイトに載っているポール・シュレットアウネ監督インタヴューによると、ノルウェーの映画事情はなかなかキビシイものがあるらしい。監督がデビューした1990年代は国が予算を管理し、製作される映画の本数も少なく、映画を撮ることは大変な時代だったのだそう。監督たちがパイオニアとなりノルウェー映画界を引っ張ってきた。現在でも上映される作品はハリウッド映画など外国映画が多数を占めているけれど、昨年ノルウェー映画の動員が25%になったそうで、これは今までにないくらい高い数字なのだそう。なるほど・・・ 今作でもノルウェーの曇天の暗い感じや、郊外の街のデザイン化されていないデザインというか、そういう感じが映画の不安感にとっても作用したと思うし、アナの妄想として描かれた湖の幻想的な美しさなど、北欧の独特の暗さや美しさがとすごく良かったので、これからもノルウェー映画見てみたいと思った。

あまり怖くないサスペンス・スリラーが見たい方オススメ、ノオミ・ラパスお好きな方もオススメ!

『チャイルド・コール 呼声』Official site


コメント (2)
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