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コニー・ウィリス『航路(上)』

2012-04-11 11:44:00 | ノンジャンル
 岡野宏文さんと豊崎由美さんの共著『読まずに小説書けますか』の中で紹介されていた、コニー・ウィリスの'01年作品『航路(上)』を読みました。
 認知心理学者のジョアンナは科学的見地から臨死体験(NDE)を分析するために、心停止患者の話の聞き取り調査をしています。神経内科医のリチャードは、人体に無害な薬物ジテタミンがNDEそっくりの幻覚を誘発することを発見。自ら被験者の脳の画像の分析をするとともに、被験者の聞き取りをジョアンナに頼みます。NDEは死に直面した脳のサバイバル・メカニズムではないかというリチャードの仮説が証明されれば、心停止患者の蘇生確率を高められるかもしれないと考えたジョアンナはその依頼を受けることにします。
 ところが、彼女が面接しようとした被験同意者のほとんどが、患者に都合のいい体験を作話させ、都合の悪い光景や音は無視させて、「肉体を抜け出してトンネルに入り、イエス様と出会い、《光》と《人生回顧》と《いとしい故人との再開》を体験し、あの世は存在すると確信するに至る」、そんなトンデモ臨死体験本で大儲けした作家マンドレイクの息がかかってることが判明。マンドレイクはその本『トンネルの向こうの光』の印税の半分をジョアンナとリチャードが働いているマーシー総合病院に寄付し、その病院理事会の最長老メンバーを信奉者とすることに成功。病院の心停止患者から自由に聞き取り調査をできる立場を得て、ジョアンナの行く前に患者の臨死体験を「汚染」させるとともに、ジョアンナに執拗に付きまとう人物なのでした。
 「汚染」されていない数少ない被験者ミスター・セイジは極端に無口な男で有効な証言を得られず、逆にミスター・ウォジャコフスキーは太平洋戦争における自らの体験、それも矛盾だらけの話を延々とするばかりで要領を得ず、ミセス・トラウトハイムは薬物によって眠るとすぐに覚醒してしまい、唯一有益な情報を提供してくれていた女子大生ミス・タナカも授業が忙しいという理由で、途中から被験者の座を降りてしまいます。研究への助成金を維持するため、短期間の間に有効な証言を得る必要に迫られた2人でしたが、そんな中、ジョアンナは自分が被験者になることをリチャードに提案します。
 最初のセッションでは暗い廊下と音を感じ、次のセッションでは、その音が音ではなく、音が消えた後の沈黙であることが分かり、さらにセッションを続けていくと、ジョアンナはNDEの間、自分が氷山衝突直後のタイタニックのデッキにいることを直感的に理解します。やがてデッキにいる紳士が「彼なら事情を説明できるだろう」と言った人物の名前ミスター・ブライアリーが、彼女の高校時代の英語の先生であることを思い出し、その先生が授業中、しじゅうタイタニックのことに触れ、ありとあらゆるもののメタファーに使っていたことをも思い出します。
 ジョアンナはブライアリー先生の元を訪ねますが、先生は重度のアルツハイマー症にかかっていて、彼から有効な証言は得ることはできませんでしたが、彼の世話をしている彼の姪キットの協力を得て、自分がNDEで行く先がタイタニックである証拠を掴むことに専心していきます。次々と明らかになる一方、決定的なものとはならない証拠の数々。やがて彼女はタイタニックの中にある体育室で、以前病院のERで急死した男グレッグ・メノッティに出会うのでした。

 2段組で400ページ超の分量でしたが、何とか読破できました。細々としたエピソードから立ちのぼる登場人物の人間性と、台詞の面白さのなせる技なのでしょう。下巻も頑張って読みたいと思います。

→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/