宮田珠己さんの ‘15年作品『日本全国津々うりゃうりゃ 仕事逃亡編』を読みました。
本文からいくつか引用させていただくと、
・「砕氷船は、あのずんぐりむっくりした船首で氷に乗っかり船の重みによって割る仕組みなのだそうである」
・「クマゲラという鳥は、樹を嘴でつっつくとき、長い舌を脳に巻きつけて振動から守るのだそうだ」
・「(流氷ウォークのために)ドライスーツに着替えさせられた。ウェットスーツと違い、服を着たままその上から装着するので、これがあれば冷たい海でも対応できるのだ」
・「沖に行くにつれて凸凹は大きくなり、厚い氷の板がでたらめに立ち上がったり重なり合ったりして、手を使ってよじ登らないと先へ進めなくなる。なかにはモノリスのようにきれいに立ち上がっている氷もあった」
・「なかでも北方民族博物館は、大阪にある国立民族学博物館の北海道版といった感じで、非常に見ごたえがあった。(中略)北海道といえばアイヌ人かと思ったら、それより前に、オホーツク人や擦文(さつもん)人というのがいたらしいのだった」
・「粘菌は、変形菌とも呼ばれ、いろいろな形に変化する」
・「エビとカニの水族館で、エサがエビ。再生可能エネルギーみたいな話だろうか。いいのか、そういうことで」
・「冷静に何が一番イヤかと考えて、(中略)実害のない虫のなかで一番イヤなのは、極細の長い脚だけが数本集まって歩き回ってるアレである」
・「ロックバランシングというのは、その名の通り、石をバランスよく積む行為で、これが最近世界的に流行っているのだという」
・「石川雲蝶なる名工の手で寺の天井に彫られた、『道元禅師猛虎調伏之図』と呼ばれる彫刻の写真ではないのか。前々から神社やお寺に彫られたレリーフに興味があり、石川雲蝶の名のこの作品も一度見てみたいと思っていたのだ」
・「床板に空いた節穴を、ひょうたんや木の葉、花瓶、船などの形を模した木で埋めたもので、雲蝶のちょっとした遊び心が感じられるわけだが、床板のなかからそれらを探し出すのが面白い」
・「この天井は、下で落ち着いてお経など読んでいられない感じだ。落ちてくるとは思わないまでも、圧倒的な存在感で、上からぐいぐい押し潰される気がする」
・「欄間に彫られた『道元禅師一夜碧厳』は、道元が写経する場面だが、机や香炉など調度品が細かくリアルに表現され、そのリアルがやっぱり斜めに歪んでいて、妖怪的な見応えになっていた」
・「私はこれまで全国各地で何度もB級スポットを訪れており、ことさらに宗教性を謳う施設ほど、ズッコケ度が高いことはよくわかっている」
・「見れば、入口を入ってすぐのところに閻魔堂なる建物があり、不気味な咆哮はその建物から聞こえてきている。つまりお化け屋敷的な何かだろう。背を屈めないと入れない狭い穴から内部に入ると、中は地獄の炎をイメージした真っ赤っ赤な空間だった。つまらぬ人形などおいていないデザイン性と、迫力ある音響効果で、そのへんのお化け屋敷より恐ろしい感じがする。両側から鬼の叫びが聞こえる細い廊下など、不気味過ぎて、子どもは通れないのではあるまいか。おかげで、『まんだら遊苑』への疑心暗鬼のなかに、かすかな畏敬の念が芽生えたほどだ。よくできている……。(中略)さらにその後も、針山を模した鉄の三角錐から鬼の声が聞こえるコーナーや、井戸のような中に声を発すると、声質が不気味に変換されてあたりに響く設備など、だからどうしたと思わなくもない一方で、出来具合としてはまずまずの施設が続く」
「『知床半島は、世界でも熊の密度がもっとも濃い場所のひとつです』って、えええ! 熊密度世界最大! 誰だこんなツアーに参加しようと言いだしたのは。熊の爪痕は、ものすごくくっきりと刻まれていて、つまりそれは爪が相当深く食い込んだことを示していた。しかもずいぶん上まであり、ガイドによれば、熊は簡単に樹に上りますとのこと。ということは、樹の上に逃げてもダメなのであった。それでもガイドは余裕の表情で、熊も人間を怖がっているから、歩くときはなるべく音を立てるようにして早めに気づかせるのが大切です、そうすれば熊のほうで人間を避けてくれます、とか何とか言ってる端から、遠くのほうで何か黒いものがガサガサッと動いて、うおおおおっ!目を凝らすと鹿であった。危ない危ない。脅かすんじゃないぞ鹿」といったようなユーモラスな文体はいつもの通りで、宮田さんによる「まぬけ」な絵も味わい深く、写真も多く掲載されていて、単なる旅行記を読む楽しみを今回も上回っていたと思います。
本文からいくつか引用させていただくと、
・「砕氷船は、あのずんぐりむっくりした船首で氷に乗っかり船の重みによって割る仕組みなのだそうである」
・「クマゲラという鳥は、樹を嘴でつっつくとき、長い舌を脳に巻きつけて振動から守るのだそうだ」
・「(流氷ウォークのために)ドライスーツに着替えさせられた。ウェットスーツと違い、服を着たままその上から装着するので、これがあれば冷たい海でも対応できるのだ」
・「沖に行くにつれて凸凹は大きくなり、厚い氷の板がでたらめに立ち上がったり重なり合ったりして、手を使ってよじ登らないと先へ進めなくなる。なかにはモノリスのようにきれいに立ち上がっている氷もあった」
・「なかでも北方民族博物館は、大阪にある国立民族学博物館の北海道版といった感じで、非常に見ごたえがあった。(中略)北海道といえばアイヌ人かと思ったら、それより前に、オホーツク人や擦文(さつもん)人というのがいたらしいのだった」
・「粘菌は、変形菌とも呼ばれ、いろいろな形に変化する」
・「エビとカニの水族館で、エサがエビ。再生可能エネルギーみたいな話だろうか。いいのか、そういうことで」
・「冷静に何が一番イヤかと考えて、(中略)実害のない虫のなかで一番イヤなのは、極細の長い脚だけが数本集まって歩き回ってるアレである」
・「ロックバランシングというのは、その名の通り、石をバランスよく積む行為で、これが最近世界的に流行っているのだという」
・「石川雲蝶なる名工の手で寺の天井に彫られた、『道元禅師猛虎調伏之図』と呼ばれる彫刻の写真ではないのか。前々から神社やお寺に彫られたレリーフに興味があり、石川雲蝶の名のこの作品も一度見てみたいと思っていたのだ」
・「床板に空いた節穴を、ひょうたんや木の葉、花瓶、船などの形を模した木で埋めたもので、雲蝶のちょっとした遊び心が感じられるわけだが、床板のなかからそれらを探し出すのが面白い」
・「この天井は、下で落ち着いてお経など読んでいられない感じだ。落ちてくるとは思わないまでも、圧倒的な存在感で、上からぐいぐい押し潰される気がする」
・「欄間に彫られた『道元禅師一夜碧厳』は、道元が写経する場面だが、机や香炉など調度品が細かくリアルに表現され、そのリアルがやっぱり斜めに歪んでいて、妖怪的な見応えになっていた」
・「私はこれまで全国各地で何度もB級スポットを訪れており、ことさらに宗教性を謳う施設ほど、ズッコケ度が高いことはよくわかっている」
・「見れば、入口を入ってすぐのところに閻魔堂なる建物があり、不気味な咆哮はその建物から聞こえてきている。つまりお化け屋敷的な何かだろう。背を屈めないと入れない狭い穴から内部に入ると、中は地獄の炎をイメージした真っ赤っ赤な空間だった。つまらぬ人形などおいていないデザイン性と、迫力ある音響効果で、そのへんのお化け屋敷より恐ろしい感じがする。両側から鬼の叫びが聞こえる細い廊下など、不気味過ぎて、子どもは通れないのではあるまいか。おかげで、『まんだら遊苑』への疑心暗鬼のなかに、かすかな畏敬の念が芽生えたほどだ。よくできている……。(中略)さらにその後も、針山を模した鉄の三角錐から鬼の声が聞こえるコーナーや、井戸のような中に声を発すると、声質が不気味に変換されてあたりに響く設備など、だからどうしたと思わなくもない一方で、出来具合としてはまずまずの施設が続く」
「『知床半島は、世界でも熊の密度がもっとも濃い場所のひとつです』って、えええ! 熊密度世界最大! 誰だこんなツアーに参加しようと言いだしたのは。熊の爪痕は、ものすごくくっきりと刻まれていて、つまりそれは爪が相当深く食い込んだことを示していた。しかもずいぶん上まであり、ガイドによれば、熊は簡単に樹に上りますとのこと。ということは、樹の上に逃げてもダメなのであった。それでもガイドは余裕の表情で、熊も人間を怖がっているから、歩くときはなるべく音を立てるようにして早めに気づかせるのが大切です、そうすれば熊のほうで人間を避けてくれます、とか何とか言ってる端から、遠くのほうで何か黒いものがガサガサッと動いて、うおおおおっ!目を凝らすと鹿であった。危ない危ない。脅かすんじゃないぞ鹿」といったようなユーモラスな文体はいつもの通りで、宮田さんによる「まぬけ」な絵も味わい深く、写真も多く掲載されていて、単なる旅行記を読む楽しみを今回も上回っていたと思います。