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今日の中日新聞にジェンダー関連図書排除事件に関して、
「核心」に「福井・男女参画本撤去の背景 やまぬ圧力 行政委縮」
という、バックラッシュをふまえた鋭い切り口の特集記事が載った。
記事を書かれたのは、福井支社の栃尾敏さんと北村剛史さん。
栃尾さんは、長年、原発問題に取り組み、
現地福井から特集記事を署名入りで発信し続けている。
わたしも何度かお話したことがある。
余分な説明はいらないと思うので、
ぜひ記事をお読みください。
福井・男女参画本撤去の背景
やまぬ圧力 行政委縮
福井県生活学習館が、ジェンダー(社会・文化的性差)をテーマにした上野千鶴子東大教授(社会学)の著書などを「公共施設にふさわしくない」という一部からの指摘で、ひそかに書架から撤去していた問題が波紋を広げている。著者や女性団体は、古代中国の・秦の始皇帝が行った言論弾圧になぞらえ「福井発・焚書坑儒(ふんしょこうじゅ)事件」と呼んで、討論会開催や公開質問状を出すなど徹底抗戦の構え。「男女共同参画」の取り組みに対し、全国的に目立つ「巻き返し」の動きが″事件″の背景にあるようだ。(福井支社・栃尾敏、北村剛史)
「家族の関係を軽視」「女性優遇おかしい」
「内容が過激で不適切」と指摘した蔵書リストを作成、県に働きかけて撤去のきっかけを作ったのは、県の男女共同参画推進員の男性会社員(51)。今年初め、一日かけて生活学習館の書棚を調べ、リストを作成した。
取材に対し「家族や夫婦の関係を軽視し、シングルマザーや離婚を肯定する本が多くあった。中高校生も来る公共施設にふさわしくない」とリスト提出の理由を説明している。二十八人いる推進員の一人として「あくまで個人の立場で」と話す。
男性は推進員になった時からこの問題に熱心で、昨年11月、「不適切な図書」を生活学習館から排除するよう県に申し入れ、県側にあっさり拒否された。
それから四カ月後のことし三月、本は撤去された。県の方針がかわったのはなぜか。
■館長の不在に
「知っていれば、絶対にさせなかった」。今年三月まで生活学習館館長を務めた政野澄子さんは悔しがる。牧野さんは元県連合婦人会長で「県庁外」からの登用。″外様″の政野さんの関与を避けようとしたかのように、撤去作業は政野さんが出張中の三月、本庁の直接指示で県職員が行ったという。事前・事後報告はなく、政野さんが知ったのは館長退任後の四月だった。
撤去を指示したのは本庁の総務部男女参画・県民活動課の前課長(女性)。上司にあたる杉本達治県総務部長は会見で「(推進員が)本の内容が問題だと何度も繰り返し訴えてきた、と聞いている」と釈明。「撤去ではなく(指摘された本の)内容確認だけだった」と苦しい弁明に終始した。
前館長の政野さんは、異例の書籍撤去につながったのは複数方面からの「圧力」が原因とみる。
推進員が最初の撤去要請をする一カ月前の昨年十月、県議会で自民党の有力議員が生活学習館にある上野教授の著書を名指しで批判した。こうした圧力が重なり、今回の事件を引き起こしたとみられる。
事情を知る県職員は「推進員からの再三の撤去要求に担当課が音を上げ、影響を深く考えずに応じた。ますい対応だった」と明かす。
「考えが気にいらんなら、言論で戦えばええやないですか」
今年六月、大阪府立女性センター。男女共同参画や人権問題に取り組む市民団体、個人が主催した「福井・ジェンダー図書撤去事件」緊急集会で、上野千鶴子教授は関西弁で怒りをぶつけた。
■全国的に拡大
男女共同参画やジェンダーフリーへの攻勢は、福井だけではない。▽男女共同参画推進センターがジェンダーフリーの用語を記載した市広報紙を図書コーナーから一時撤去(東京都調布市)▽女性センターの設置条例が否決され閉館(千葉県)-など、全国で相次いでいる。
大阪での緊急集会でも、関西の自治体の男女共同参画関係者たちが「講師選びに本庁部長の許可が必要になった」「女性優遇はおかしいと議会から圧力が」と現状報告。動きの底流には「国家と家族を守れという、国家統制回帰の流れがある」との指摘があった。
主催したメンバーの森屋裕子さんは「全国的に行政の自粛が目立つ。福井ではそれが先鋭的な形で出た。今、声を上げないと大変なことになる」と危機感を募らせる。
【ジェンダー関連本撤去問題】
福井県生活学習館(福井市)が今年3月、県の男女共同参画推進員(計28人)の一人がリストを作成し、「内容が過激で不適切」と蔵書の一部の排除を求めたのを受け、職員が書架から150冊を撤去。事態に気づいた県内外の女性議員らが抗議し、5月に戻した。撤去された本の著者と支援団体は、リストの詳細について情報公開請求したが、県は非公開に。提訴の構えを見せると突然、今月11日に公開された。請求した側は納得せず、県に対して抗議文と公開質問状を出した。
■福井県公開のリスト(主な書籍名・原文のまま)
▽スカートの下の劇場(上野千鶴子)▽1.57ショック(同)▽女という快楽(同)▽なりたい自分になれる本(同)▽ジェンダーの社会学(江原由美子)▽フェミニズムの主張(同)▽もう「女」はやってられない(田嶋陽子)▽従軍慰安婦の話(西野瑠美子)▽離婚判例ガイド(二宮周平)▽エイジズム(樋口恵子)▽結婚はバクチである(福島瑞穂)▽サブカルチャー神話解体(宮台真司他)
(中日新聞 2006.8.21)
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この事件が起きて以来、わたしは情報公開請求の当事者として、
本庁の職員に事実関係の聴き取りをつづけているが、
場当たり的な対応と無責任さにあきれ果てている。
今回の事件は、本庁の事なかれ主義と隠蔽体質が原因だけど、
統一教会に関係のある有力自民党議員を後ろ盾にした
一男女共同参画推進員の圧力に屈したというよりは、
むしろ、迎合しているのでは?と感じさえする。
そもそもなぜ女性政策を後退させようとする意図を持った
組織に所属する人が男女共同参画推進員に委嘱されたのか?
推進員の委嘱の権限は知事にあり、現場の生活学習館にはないという。
むしろ前館長は、数年前からバックラッシュを繰り返す
この人物を警戒していたというのに・・・・?
わたしも今回生活学習館サイドの聴き取りをして、
図書の撤去が起きた生活学習館は、現場の苦悩を抱え、
バックラッシュを何とか食い止めたい
という思いを持っていると、強く感じている。
わたしたちの行動は生活学習館を批判したり
攻撃したりするものではない。わたしは、
女性政策の唯一の拠点である生活学習館を、
図書を、利用者の知る権利を、バックラッシュ派から守りたい。
今回の事件で出てきた、約800枚の公文書を元に、
すべての事実関係をていねいに精査分析して、
いつ、どこで、だれが撤去を意思決定をしたのか、
背景にあるものを含めて問題を明らかにしたい。
そして、8月26日の抗議集会には、
事件の問題点を指摘するだけでなく、対抗するアクションとして、
福井の人たちも参加できる、次の一手を提案する予定。
あなたも是非、抗議集会とアクションにご参加を!
ところで、
本が届きました。
『「ジェンダー」の危機を超える!
徹底討論!バックラッシュ』
(若桑みどり・加藤秀一・皆川満寿美・赤石千衣子編著/
青弓社/1600円+税)
3月25日に、一連のバックラッシュに抗するために
東京で開催された「ジェンダー概念考えるシンポジウム」の記録です。
本の紹介記事はこちら(8/16)
届いてすぐに読んだ。
読みながら、シンポのアツイ一日が心に浮かぶ。
とってもいい本だ。
当日、所用でシンポに参加できなかった上野千鶴子さんが
序章に「『渦中の人』から」を寄稿している。
今回の、ジェンダー図書撤去事件にも関係する、
その章の、結びの一部(p31~32)を紹介したい。
バックラッシュ派が市民運動の言語や手法を学んでいることは知られている。請願、ロビー活動、署名、市民参加・・・・変革の理論的な武器であった構築主義でさえ、バックラッシュ派は取りこんでしまった。とはいえ、そのような方法や理論自体が間違っているわけではない。変革の道具は、反動の道具にも使われる。というだけのことである。だとすれば、わたしたちにやるべきことは次の二つしかない。
第一に、つね方法においても言語においても、反動派の一歩先を制することである。対抗勢力はいずれ保守派に追いつかれ、陳腐化する。ここまでくれば安心、という状態は存在しない。わたしたちはいつでも変化にさらされていることを自覚するべきだろう。
第二に、たとえもぐらたたきのような徒労に思えようが、バックラッシュ派のいちいちの動きに、一つひとつ、その時・その場で対抗手段を講じていくことである。そうでなければ獲得した成果の足元は掘り崩され、換骨奪胎されていくことを食い止められないばかりか、バックラッシュ派に知らないうちに侵食されてしまうことになるだろう。バックラッシュ派の勢力はそれほど大きくないにもかかわらず、メディアでも政治でも行政でも、声高な主張のおかげで大きな勢力に見えている。そして失点をおそれる官僚と「不作為」をおそれる中間派とは、声の大きいほうにひきずられる傾向がある。多数派を巻き込んで潮目が一気に変わってしまえば、それに対抗するのは難しい。そうなる前に、いちいちの「反動攻勢」に対して、「待った」をかけ、横車は許さないというアクションを示すことが必要だ。
今回の国分寺事件だけでなく、昨年の鹿児島県議会での吉野正二郎議員(自民党)の問題発言への抗議、福井県女性センターでのジェンダー関連図書150冊の開架図書からの撤去事件とその現状回復(注7)、千葉県議会での女性センター設置条例否決への抗議、東京都男女平等参画審議会委員への高橋史郎氏の就任に対する憂慮表明など、ここ短期間のうちにいくつものアクションがとられ、そのうちの一部は着実に成果を上げてきた。フェミニズムはこれまでもノイズを発信してきたし、それからもノイズを発信しつづけることだろう。わたしたちは論争を怖れないが、互いに敵対したり排除しあったりしている余裕はないのだ。
こういう問題に直面するといつも思い出すアジアのあるフェミニストの言葉がある--
わたしたちは、絶望しているひまなんか、ないのよ。
(注7)福井県の図書撤去事件は、①男女共同参画推進員という行政への市民参加のしくみを利用し、②そのうちのたった一人のクレームによって百五十冊の書籍が撤去されるという点でバックラッシュ派にとってはきわめて省エネの動きであり、③しかも一人のクレームに行政が反応したという点で、官僚のことなかれ主義をよく示したものである。これに対して敦賀市議会議員の今大地晴美さんらによる住民監査請求のような正統の手続きがとられると、行政はただちにそれに対応せざるをえなくなり、百五十冊の書籍は開架書棚に戻った。その後今大地さんを中心として福井県に百五十冊の書籍リストの情報公開を求めたところ、六月十二日に福井県ち自明で、「非公開決定通知」を、それに対するさらる公開請求に対して、七月十五日に一部公開(すべての書名・著者名・出版社名を黒塗りで抹消したもの)の文書が届いた。関係者はさらなる抗議を準備中である。
(『「ジェンダー」の危機を超える!』より)
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市民運動は、あらゆる政策において、権力に対峙し、
声高に叫ぶものに対し、現場から一つひとつ着実に、
「正攻法」の異議申し立ての運動と経験を重ねてきた。
あなたも、わたしも、いままさに「渦中」にいる。
声を上げるのに、遅すぎる、ということはない。
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