寿司屋さんの醤油注し。青みがかった色がいかにも美しい。持ち重りのするこの容器かたさす醤油は、寿司を食べるのにふさわしい。
今日、72回目の誕生日を迎えた。あいにくの雪である。誕生日といっても特別のことをするわけではない。その日にかこつけて、美味しいものを食べに行くことにしている。今年は、長い付き合いのsさん夫妻に同行してもらった。もう30年以上も前から行っている「寿司長助」で、握り寿司と生ビールを堪能した。
ここの寿司はいつも美味しいのだが、最近は回転寿司に客をとられたのか、いまひとつ元気がない。そういえば、昔ながらの寿司屋さんが閉店に追い込まれているのが目につく。新鮮なネタを、職人が目の前で握ってくれるのを食べるのは大きな楽しみだし、日本食のシンボルでもある。
海外旅行などに出かけて日本食の飢えて戻ってくると、真っ先にくぐるのは寿司屋の暖簾だし、そこで味わう寿司の繊細な味わいは何ものにも代えがたい。そんな、握り寿司屋さんが衰退していくのはいかにも惜しい気がする。せいぜい、なにかの折には、店に行って寿司を楽しむことを心がけねばならない。
昔からの付き合いであるs夫妻との話の話題も次第に変化している。働き盛りのころは考えもしなかった病気やお墓の話が自然に出てくる。お互い日本人の平均寿命まであと数年のところいるのだから当然なのだろうが、いかにも暗い話だ。もっと身体を元気にして、生きている時間を充実させたい。忘却の時間だけが早く過ぎていくのではなく、いままでできなかったことを、ひとつでもふたつでも成就させてみたい。