春めいてきて、寒鱈もそろそろ終わりそうだ。本格的な春の前に、もう一度だけ食べておきたいのが、寒鱈のどんがら汁だ。身はとった真鱈のアラを、頭から尾まで、骨を含めて内蔵を小さくきったものを、鍋に入れて煮る。ネギを入れるだけで、味噌味のシンプルな浜料理だ。アラ汁が一般的な呼び名だが、この地方の方言で、どんがら汁である。
このどんがら汁を食べる度に、思い出すのが、酒田で初めて食べたどんがら汁である。もう亡くなってしまったが、酒田で企画会社を経営している田森さんと一緒に仕事をしていた。ある冬、酒田でどんがら汁を食べてみらという話になって、田森さんが店を手配してくれた。このとき初めて知ったのが、予約である。ぶらりと店に行ったのでは、本当に美味しい鱈は食べられないというのだ。
なぜなら、冬でも鱈はいきが下がりやすく、漁から帰って船が、朝荷揚げした鱈を仕入れるということであった。海の近くの人はそんなに贅沢な食べ方をしているのかと驚いた。実際に、酒田で食べてみて、納得した。キクワタを生で食べたことはあるが、最初に出されたのが、肝臓(アブラワタ)の刺身であった。口に入れた時の食感と、なんともいえぬ旨さはいまだに忘れられない。
身は昆布絞めにして刺身にで食べた。残ったどんがらを豪快に鍋にしてくれた。酒田では岩のりが、香りづけに入れられる。私は内陸育ちだったので、鱈は塩した切り身しか食べていない。それでも、その切り身を豆腐入れて煮る鱈チリが大好物であった。どんがら汁は、そんな鱈への認識を根底から変えた食べものであった。
鱈ちりやもとより酒も熱くして 片山鶏頭子
大鱈を断ちたる刃物洗ひをり 植松 たか