気温13℃。春分の日を前に、春らしい日がやってきた。ぼた餅をつくり、お供えの花を買って墓参りに行く。義母の家の片づけをする。老人の一人暮らしは、あまりに捨てるものがたまりすぎる。自分の持ち物を考えると、やはり不要なものはどんどん捨てて、身軽にならねばならぬ。
冬の重たい空気がとれて、日ざしが見えると心もうきうきとしてくる。そんな日に、うれしいできごとがふたつ。一つは今にも咲きそうだったシンビジュームの花芽が、ついに開いた。その可憐さは、冬のあいだ待ち続けた甲斐があるというものだ。微笑むという表現がふさわしい。もう一つは、ベランダの鉢のなかで、行者ニンニクが芽を出したこと。日へ向かって双葉を開くしぐさは、生命の神秘を表している。
日も真上春分の日をよろこべば 林 翔
春の訪れを喜んでいるは、人間ばかりでなく、鉢のなかの小さな植物もまた同じなのだ。
アイヌネギとも呼ばれるこの植物は山菜として珍重される。名前の由来は、山に分け入って修行した修験道の行者が、この山菜を食べて精をつけたためであるらしい。炒め物やサラダなど、ニンニクの香りがしてとてもおいしい。