きのうは、24節気の啓蟄であった。春の陽気で、土のなかから虫が出てくるからこう呼ばれる。空からは、偏西風に乗って招かれざる物質が飛来する。黄砂とともに中国の大気汚染に含まれているPM2.5だ。日本でも1970年代に大気汚染による光化学スモッグが問題にされた。
新聞を見ていると、この季節に蚊に刺されるという話題が載っていた。東京のマンションでのことである。蚊は15℃以上になると繁殖するとのことだが、地下の駐車場などの水たまりで繁殖するらしい。空腹の蚊は排気パイプを通って、人間の呼気に含まれる二酸化酸素に反応して室内に侵入すると、一気に刺すらしい。
土が温められる前に蚊が繁殖するということでは、夏の蚊が冬に現われ、啓蟄の季節感がいささか損なわれるような気がする。そこで、チャペックの「3月の園芸家」の項目から、季節感を感じてみよう。
土が凍っていると言っては、檻の中のライオンのように、園芸家は家のなかでむかっ腹をたてる。鼻風邪をひいたと言ってはストーブにかじりつき、やれ歯医者だ、裁判所だ、やれ伯母が来た、伯父が来た、うるさ型のおばあさんが訪ねて来た、といったぐあいに、ありとあらゆる災難、不幸、めんどうな事件や不愉快な問題が、申し合わせたように、みんな3月という月にかたまって起こり、それに追われて一日一日と日がたっていく。つまり、うかうかしていられないのだ。「3月は、花壇にとって、春のしたくをしなければならない、いちばん大切な月です」
ユーモアに富んだチャペックは、3月の悪天候に堪忍袋の緒を切って叫び出す。
「ちくしょう、ことしの冬はまったく、糞いまいましい、罰あたりの、べらぼうな、途方もないひどい冬だ」と。
畑の準備を気にしている身にしては、こんな季節感こそがふさわしいのだ。