常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

昭和の匂い 身の上相談

2013年08月07日 | 日記


昔、時間が待ち遠しく聞いたラジオは「小沢昭一的こころ」、家族に隠れるようにして読んだ新聞記事は「身の上相談」であった。どちらもちょっと恥ずかしいような大人の色気が漂う内容になっていた。特に「身の上相談」には女性の相談が多く、世の女性たちはどんな悩みを持っているのか興味津々であった。昭和39年の新聞の身の上相談にこんな記事が載った。

「結婚9年、二歳年下の夫との間に、三児があります。昨年の初めから夫が怠け始め、会社も辞め、生活に追われて私は、娘時代勤めた銀行へ働きに出ました。職場で親切にしてくれるAに心をひかれ、一しょに映画を見に行ったりするうち行内の評判になり、Aは退職、私も夫を嫌うあまりAのもとに走り、1月以来同棲しました。その間女中奉公をしたりして、失業中のAと苦労しながらも、幸福な日を送りましたが、最近いろいろ考え出してきたAが、別れ話を持ち出してきました。私としては、何の罪もない彼の妻子のもとへ、一日も早く帰してやりたのですが、後で一人ぼっちになることを考えると、何もかも忘れて死にたくなります。お導きください。東京M子」

回答は作家の宇野千代である。宇野千代は作家の尾崎士郎、画家の東郷青児、作家の北原武夫と恋愛、結婚遍歴で有名であった。常に幸福を考え、その言葉に「人間とは動く動物である。生きることは動くことである。生きている限り毎日、身体を動かさなければならない。心を動かさなければならない。」という名言がある。

「長いお手紙を読んで、私にはあなたの気持ちが手にとるように判ります。いまのあなたを見て、罰があたったのだと笑ったりすることが出来ましょうか。私もあなたと同じように人生の道しるべを見失い、夜他人の家にともっている灯を見て、幾度泣いたことでしょう。しかし、お手紙を見て私は、あなたの心がいつの場合でも実にあたたかく、自然であるのを感じます。たぶんあなたは、いつの場合でも、自分のことと一しょに、他人の苦悩を感じることの出来る、珍しい心の持ち主だと思うのです。細かいことは判りませんが、あなたは決して死んだりはなさらない。仕事はどこにでもあります。まず仕事を探してください。他のことはすべて時日が解決します。あなたの死が三人の子供やその他の人にとって、どうゆうことになるか。それを考えただけであなたは死んだりなさらない。どんなことでもよい。仕事を探して、身体を動かしてください。一歩足を踏み出してください。」

人生の酸いも甘いもかみ分けた宇野千代ならでは回答である。平成の時代では、理解しがたい行動について「心の闇」などという言葉で済ませてしまうことが多い。宇野千代の言葉は、今の時代こそしっかり心に焼き付けておきたい。



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