常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

こだま

2013年08月12日 | 日記


もう、こだまを知っている子供たちも少なくなった。自分の子供のころは、山道で谷向かって叫ぶと、その声が山に反響して帰ってきた。きょうは、こだまの音が冴えているから、雨にならない、などとと知った風で話したものだ。空気中に湿気があると、それに音が吸収されて、どこかくぐもったこだまになる。あながち、ばかにした話でもない。

ふるさとの
谷のこだまに今も尚
籠りてあらむ母が梭の音 

石川啄木の望郷の歌である。啄木の母の機織の響きは、ふるさとの谷にこだましていたのであろう。明治41年5月、啄木は北海道から単身上京して、小説家をめざし苦闘の日々を送っていた。友人の金田一京助の厚意で下宿生活をしながら、小説5編、原稿用紙に300枚を出版社に持ち込んだが、ことごとくつき返された。目論んでいた収入も叶わず、一日の食べものさえもない赤貧の生活であった。

たはむれに
母を背負いてそのあまり
軽きに泣きて三歩あゆまず

この歌は実際に母を背負ったのではなく、制作上の虚構である。赤貧の生活にうちひしがれた啄木にとって、ふるさとにある母の姿は、山のこだまのようにその胸に響き続けたのであろう。

コメント
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