秋に現われる高積雲、別名ひつじ雲である。雲は時々刻々と変化する。太陽に横にうろこ雲があると思って散歩していると、集まってひつじ雲になっているという具合である。空を見上げながら、雲を詠んだ歌人に斉藤茂吉がいる。
岩ふみて吾立つやまの火の山に雲せまりくる五百つ白雲
小旗ぐも大旗雲のなびかひに今し八尺の日は入らむとす
いなびかりふくめる雲のたたずまひ物ほしにのぼりつくづくと見つ
(赤光 雲)
明治40年に、茂吉の師にあたる伊藤左千夫が、新聞に「雲」と題する和歌を募ったのに応じて14首の「雲」を詠んでいる。やはり、いつも見ている雲とは違った瞬間を捉えようしたのであろう。いろいろの場合を求めて、長い時間をかけて大変苦労して詠んだと述懐している。伊藤左千夫から誉められ、励ましも受けた。
二葉亭四迷が日本で初めて言文一致体の小説『浮雲』を書いたのは、明治20年1月のことである。四迷(本名長谷川)はこの年19歳であった。土蔵のなかに引きこもり、暗い片隅にテーブルを置き、箱の上に蒲団を置いて椅子にして、この小説に取り組んだ。ツルゲーネフの『父と子』の翻訳を参考にし、坪内逍遥に助言を求めた。