田の稲に隣あって蕎麦の花が咲いている。国の減反政策で稲を栽培できない田に、代替として蕎麦を植える農家が増えている。一面の蕎麦の花が白い花を咲かせる風景は、減反に始まったのではなく、昔から山の畑に蕎麦が植えられてきた。北海道に蕎麦が多いのは、開拓した畑に最初の蕎麦を蒔いたからだ。蕎麦は荒地にも強く、春に植えれば夏に収穫が可能だし夏に蒔けば晩秋に刈入れができる。
蕎麦はまだ花でもてなす山路かな 芭蕉
香り高い新そばの季節は、もう少し気温が下がって蕎麦の実が入らなければできない。芭蕉はおもてなしが新そばでなくとも、蕎麦の花であってもよいとその風情をよろこんでいる。北海道に住んでいたころ、蕎麦うちは母の数少ない特技であった。母は蕎麦が好きで、自分で打った蕎麦を味噌汁のなかに入れて子供たちに食べさせた。
だが、蕎麦の食べ方がいかにも田舎的で、孫たちには苦手なものだったようだ。田舎の料理はとろろ芋や牛乳チーズなどが人気があった。母のもてなしには、どこか荒削りな雰囲気がついてまわっていた。