秋の山に自生するのはあけびである。通草と書いてあけびと読む。「秘密の県民ショー」でやや自虐的に山形県民は、野の草などどこでも食べないものを食べるというので有名になった。あけびも普通は中の種の部分の綿のような実を食べる。皮の部分は捨てられるのが一般的だが、山形ではこれを食べる。
皮を短冊に切って油で炒め、豚肉を入れて醤油で味付け。皮には少し苦みがあって、これが酒の肴に合う。あけびは実だけ食べるのではない。春一番に新芽が出ると、この芽を採って湯がいて胡桃をかけて食べる。これも苦みがあって春一番の山菜である。やや春がたけなわになると、新芽は蔓を伸ばし始める。山形ではこれをツンといってやはりお浸しにして食べる。山近くに住む人には、春欠かせない味になっている。
あけびはこうして人に食べられるが、さらに蔓は編んでハケゴや魚篭に利用する。こんな風に、あけびは山村に暮す人に利用されつくしてきた。もう少し朝夕の気温が下がると、あけびは紫の色をおびて、部屋に飾られ、紅葉や秋の花の生け花の材料としても用いられる。人の生活になくてはならぬものだが、生命力はつよく、里山の雑木林にはとてもよく繁殖する。
林ゆく雨や通草がぬれしのみ 水原秋桜子