最近のニュースには、その出来事の裏にある事情を詳しく調べて報道されることが多い。この報道の原型は瓦版にある。安政7年の3月3日、桜田門外で水戸の浪士が井伊大老を襲った。この大事件は瓦版ですぐに江戸の市中に知らされた。その事件の原因が、彦根藩の牛肉にあると、事件の裏事情を瓦版が報じた。
牛肉は水戸斉昭の大好物であった。とりわけ彦根産の牛肉を好んで食べた。これを知った彦根藩は、けしからぬこととして水戸藩への牛肉の輸出を差し止めた。ただでさえ安政の大獄で水戸藩への弾圧は苛烈があった上に、この処置は水戸の恨みを増幅させ、桜田門外の変を引き起こしたというのだ。江戸の庶民への事件の解説としては面白い。ことの真偽は置いても、この記事がうけて瓦版が売れたことは容易に想像できる。
斉昭が牛肉を好んだのは事実だ。精力家であった斉昭は、生涯に37人もの子供をもうけ、その源は肉ではなかったと考えられる。肉が一般には食べられない時代に、殿様の好物が牛肉であったということだけでも江戸の庶民の好奇心をくすぐったであろう。現代の週刊誌の報道の手法の原型であるような気もしないではない。
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