鶴岡の銘菓、古鏡を頂いた。古鏡をかたどった皮に、餡をぎっしりと詰めたお菓子だ。手に持つとずしりと重い感じするほどで、この頃のしゃれた菓子とは一味違う、伝統の銘菓である。羽黒山の鏡池で、200面を超える古鏡が発見されたのは、昭和6年のことである。そのうち90面が、平安時代のものであることが確認されている。銘菓古鏡は、羽黒山で発見された神聖な古鏡に因んだものである。
古来日本人は、鏡を聖なるものとして崇めてきた。皇位継承の三種の神器は、八咫鏡・八尺瓊勾玉・草薙剣であり、とりわけ鏡は重要視された。かの魏志倭人伝で魏王が倭人に贈ったもののなかに鏡100面という記録がある。魏を表敬訪問した倭人が、下賜されるものに鏡を熱望したためであったらしい。日本人が鏡に執着した奥に、蛇信仰がある。カガとは古語で蛇のことで、カガ目つまり蛇の目が転じてカガミになったいう説がある。
古代人は蛇の目に光を見た。瞬きをしない開け広げた蛇の目は、カガミと同じように見えたのであろう。池に鏡を沈めるという行為は、蛇が好む水に帰したということである。古代人にとっても蛇そのものを気持ちいいものとして受け入れられたのではない。蛇の象徴としてしての光るもの、蛇の目、そのシンボルとしての鏡を身の傍に置く信仰が広がっていった。古墳の副葬品にも多量の鏡が入れられたが、これも蛇の呪力を傍らに置いて守らせるという意味があった。