岩手山は背後に姫神山、早池峰の山々を従え、正面に秋田の秋田駒ケ岳と対峙する。標高2038m、鳥海山と肩を並べる名峰だ。長年数多く山行をこなしているが、大抵の場合リーダーが率いるチームの一員で参加してきた。今回は、コースの選定からスケジュールの決定、宿泊の山小屋選び、そして車の運転と全部自分の責任で行った。同行者5名、内女性3名。
山行には様々な決断が強いられる。最初は天候の見極めが重要である。雨の予報が出ていた土曜の出発を延期して、日曜とした。結果的にこの決断が幸いして、山頂の景観が晴天のもとで見られることになった。
登山道を馬返しのキャンプ場から登ることに決めた。このコースには2合目を過ぎると旧道と新道のふたつのコースがある。旧道の5合目付近から上は、写真のガレた道だが、見晴らしがきく。反対に新道は樹林のなかを通るコースだ。尾根が一つ違うだけだが、登山の気分はまるで違う。この日はガスがかかって陽射しを遮っていたので、登りに旧道を使った。下りはでは、ガレ場で足をとられることも警戒して、下りに新道を使うことに決めた。京都から来たチームに聞いた、「うつらも、下りは新道やわ」と歯切れのいい京都弁が返ってきた。
6号目にきて、ガスが晴れてくる。振り返ると岩の向こうに滝沢の平地が見えてきた。岩手山は南部富士と呼ばれるほど、裾野を長く引く三角錐の山である。岩手県に入ってくると、何処からでも見える存在感のある山だ。先頭を行くsさんのペースで快適な山行が楽しめる。ひたすらガレた道を登る。「ずいぶん岩が多いね」「それは岩手だからね」こんな親父ギャグが飛びかう。
この季節、花はあまり多くない。ときおり、車ユリやアキノキリンソウが季節を感じさせてくれる。ミヤマオダマキが二輪かわいい姿を見せていた。ハンショウヅル、ハハコグサ、ウスユキソウも散見された。秋田駒ケ岳に登ったとき、「この花は何?」と聞かれて返事に窮したオキナグサに似た花は、ハンショウヅルであった。
登山口を9時半に出発して4時間、今夜泊まる八合目の避難小屋が見えてきた。小屋はウスユキソウとオオハナウドの群落に囲まれるようにしてあった。玄関前に御成清水の水場がある。この水場の水を使ったが、泊まった27日の朝、水が断水してしまった。小屋には当番で、管理する人が詰めている。岩手山岳会の人たちである。岩手登山普及会という腕章を着用している。
荷揚げ、小屋掃除、ストーブで湯沸し、毛布の貸し出し、宿泊料の徴収など登山者の身に行き届いた心配りをしてくれる。
当番の手伝いに来た人もいて、山中で山の情報も詳しく教えてくれた。他県からくる登山者はこのような地元の山岳会の人たちの献身的な活動なくしては快適な登山はありえない。感謝、感謝である。3時に小屋に入り、早めの夕食。楽しい語らいの後、就寝。外は風が強いが、次第に収まっていく感じ。明日の山頂が夜のうちから楽しみである。