鵜沢山は天童市の東に位置する里山である。標高730m、地元に住む人のほかにはあまり知られていない。だが、最上33観音の第一札所である若松寺の背後にあり、近くに奈良沢不動尊、姥捨て伝説のジャガラモガラ、そしてその先に雨呼山があるのを知れば、この里山がこの周辺の人々にとって、どのような存在であるのか、容易に想像できる。農業用水を供給している原崎沼が、尾根筋から望見され、その先に田や畑が広がり、そしてこじんまりとした集落が静かな佇まいを見せる。ここに定住した先人たちにとって、農業に供する水の便が必ずしも恵まれていなかったのではないか。
昨日までの寒気が残り、朝の内は雪が降る。昨夜降った新雪が15センチほど積もり、山は何度目かの雪化粧を施していた。やがて張り出してくる移動性高気圧を期待しながら、新雪を踏んで頂上をめざす。かつて里の人々に薪炭をもたらしたであろう山が、手が入られなくなって久しい。山道には雪がまだ残っているが、ブッシュが雪の上まで出ている。新雪の上に踏みあとはなく、我々のグループ以外には入山した人はいない。次第に雪があがり、後方の木々の隙間から朝日連峰が見え始めた。本日の参加者9名、内女性3名、その内新参加者のHさんが初めてのカンジキ登山に挑んだ。
尾根にとりつくまで、急な斜面の杉林を一気に登る。新雪が少し湿って、足に負担がかかる。それでも尾根の道は適度なアップダウンで障害もなく、快適な雪道歩きが楽しい。643m地点の分岐で、目指す鵜沢山が姿を現す。ここから一旦下って急登で頂上へ。青空のもとで着雪した木々は花を咲かせたように美しい。若松寺から頂上までの所要時間は2時間30分。心地よい汗。
頂上には目印もなく、木々に囲まれて眺望もない。東にどっしりと構えているのが雨呼山である。ヤマレコのサイトを見ると、雨呼山からジャガラモガラを経て鵜沢山への縦走記録がいくつも見える。信仰の山旅としてこの山をわざわざ選んで訪れる人も多いらしい。頂上でさらに青空が広がる。花のような雪を着けている木の写真を登頂の記念として下山する。
下山は危険なこころもなく快調に下る。気温が上がって雪は更に湿りを帯びている。若松寺まで1時間40分で下る。駐車場に着いて、大きな石碑に民謡の歌詞刻んである。「めでためでたの若松さまよ 枝も栄えて葉もしげる」若いカップルが、二人だけで参拝している。この寺は縁結びの寺としても知られている。