ライラックが咲いた。散歩道にあるお宅の庭に、赤味をおびた紫の花が美しい。庭に植えてあるのは大抵が小木で、さぞこの花が好きで植えたのであろうと想像できる。ものの本によると、日本の園芸種はイボタの木に接ぎ木したものが多いととのこと、そのせいか大木のライラックはあまりみかけない。
やはりこの花はヨーロッパの、ライラックの花の繁みが似合っている。トルストイの『復活』のなかで、カチューシャが恋人に接吻されるシーンがある。不意の接吻に驚いたカチューシャは、ライラックの花の繁みに駆け込み、咲いている花の枝を折って、花で紅潮した頬を叩きながら、恋人をふり返りつつ走り去って行った。この時の花は白い花であった。こんな恋の舞台回しにも、この花は似合っている。ブログで札幌に桜が咲いた記事があったが、桜が終わると北の街にも、ライラックが咲き、祭りが始まる。だが、今札幌ではコロナの第2波が拡大中でこの祭りの開催も危ぶまれるのではないか。ころな感染の終息が待たれる。
掌に風当てあゆむライラック 久保田博