桜
2021年04月02日 | 花
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自分が育った家は、北海道の石狩川に面していた。家から川の方へ行くと、堤防があり、川が蛇行していた。その堤防に、ぽつんと一本の桜が植わっていた。多分、エゾヒカンサクラであったと思う。雪がとけても、桜が咲くのは5月であった。ほかに目ぼしい花もなく、淋しげに春を告げた。小学校4年のとき、川の上流にある名勝地、神居古潭まで遠足に行った。子どもの足で3時間ほどかかる大遠征であった。大きな吊り橋があり、川べりに桜並木があって、大人たちが花見の宴会をしているのを初めて見た。ここは、両岸に岩山が迫り、狭い渓谷をなしている。対岸まで数㍍の川幅になるが、水は土砂を深くえぐり、水深は数十㍍に及んでいる。酒を飲んだ若者が、強がって川へ入ると息巻いている。それを見た小学生たちは怖ろしさに震えたのを覚えている。川には海から鮭が遡上し、この渓谷をこえて産卵した。先住民たちが漁業をめぐって部族で争った伝説が今に残されている。
ソメイヨシノの並木を見たのは、山形の学校へ入った昭和34年の春であった。入学式が15日であったが、校舎も、少し離れた馬見ケ崎川の畔でも、満開の桜が迎えてくれた。山形を花の町、という印象をその時もった。この町に生れた詩人、神保光太郎の詩がある。
私はとある食堂に入った
ぼういは慇懃に私をむかへて
白磁の皿にいっぱいの料理をはこんできた
窓には
花が爛漫と咲き零れ
道行く人は
みんな眩しそうに花をあふいで
春の挨拶をした
豊かな町で (神保光太郎)
桜は朝の清々しい空気のなかで、その輝きを増す。動画はカメラが無駄な動きをしているが、花の色がよく出ている。一夜明けて花は数を増し、蕾が我も我もと、咲く準備に忙しい。ヒヨドリが鳴きかわしながら、花が咲いたのを喜んでいるかのように飛び回っている。桜の花には、コロナの感染を恐れる人の心には、無関心に美しく咲くことのほかに余念はない。