純白の美しさを知るのは、春の陽ざしをいっぱいに受けて水辺に咲く水芭蕉の花を見たときだ。遠い尾瀬まで足をのばさなくとも、この付近には水芭蕉のスポットがたくさんある。高度が高くなれば、咲くのも遅くなるので、夏の初めまでこの花を楽しむことができる。
「深夜独りで、懐中電灯を持ち、水芭蕉の咲く湿地のわきの小径を歩いて行くと、白い炎が限りなく続いていた。それは時々青味を帯び、更に微かな声さえ聞こえてくるように思われた。」(串田孫一)
もう夜道を水芭蕉を見に行くような元気はないが、この花を見ていると、串田の心境がわかるような気がする。夏の夜に蛍を見ることも、同じ陶酔を味わわせてくれるような気がする。