早い初夏が藤の花を咲かせた。『枕草子』にめでたきものとして、「色あひふかく、花房ながく咲きたる藤の花の、松にかかりたる」(88段)とある。このお宅では、この段を知られているのか、枝ぶりのよい松に、藤の蔓が絡んいる。藤は古来、妻問いの霊力のある花と考えられてきた。
古事記にこんな話がある。新羅から渡来したイズシオトメという美しい女性がいた。あまりの美しさに、年ごろの男たちが挙って求婚して、自分を色々な方法で売り込んだ。そんななかに、ハルヤマノカスミオトコという青年がいた。青年の母は、息子のために縁起のよいと言われる藤を使った衣服をきせ、弓矢を持たせて、オトメに会わせた。すると衣服や弓矢からいっせいに藤の花が咲きだした。あまりの美しさにオトメはたちまち恋に落ち、二人はめでたく結ばれた。
この連休が明けると、孫が結婚式を挙げる。去年予定してものが、コロナのために延期していたが、いよいよその日が近づいてきた。藤の花の霊力で、コロナを退散させ、無事に式が終わってくれることを祈るのみだ。
草臥て宿かる比や藤の花 芭蕉