この季節のブナ林の緑は、その中に足を踏み入れるものを包み込んで癒してくれる。鮭川村にある与蔵峠は、奥の深い山道である。山形市内が雨がなく、乾燥注意報が出て、畑の野菜に水遣りの心配をしなければいけないが、ここは渓谷に川が流れ、何本もの滝が流れ落ちている。それだけに、沢の水を吸い上げている木々の緑は、なんともいえない深みがある。それは、地球上に生きているものの持つ生命力を現しているように見える。
この峠道は庄内の平田町へと繋がっている。かつては主要な物流を舟運に頼っていたので、そのルートから外れる山村は、山を越えたところの町へ繋がる峠道を持っていた。昨年からわが山友会では、古道である峠道に着目して、県内の峠道をいくつか登っている。古い延喜式に記載のある佐芸駅(現鮭川村)から飽海駅(現平田町)への陸路として使われていた。
峠にかかる滝は勢いよく落下し、鮭川となり、やがて最上川に合流して酒田の海へと流れていく。この川に鮭が遡上するので、この名がついたのであろう。いまも遡上した鮭を捕らえ、寒干した鮭が名産(ただし少量)となっている。
最終目的地の与蔵沼に着いたころ、曇り空から霧のような雨が落ちてきた。昼食の握り飯を早々済まして出発地点へと引き返す。川沿いに、山菜が柔らかく伸びている。シドケ、ヤマミツバ、ウド、フキなど、メンバーはそれぞれに好みのものを採る。
帰路、戸沢村のポンポ館で温泉に入る。山歩きのあとの温泉は至福の時間である。そこで出会った人たちから、山へいくことを羨ましがられた。やはり、健康でいなければ、山に行くことはできない。あと何年この楽しみを続けられるであろうか。